大澤雅彦氏 2014年 秩父宮記念山岳賞受賞

秩父宮記念山岳賞講演―熱帯高山と温帯高山の垂直分布帯はどう違うのか

 

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  受賞後の挨拶をする大澤雅彦氏

 湿潤アジアは、赤道熱帯多雨林から温帯森林を経て北緯度を超える北方森林限界まで森林が連続分布する。この地域は同時に森林限界高度を超える高山が点々と分布し、森林の水平分布帯と垂直分布帯の緯度的変化を連続して比較できる世界で唯一の地域である。

 垂直分布帯は北緯~度付近で明らかに不連続構造を示し、以南は森林限界まで常緑樹が優占する熱帯型、以北は落葉樹や針葉樹の森林限界となる温帯型の地理的パターンを示す。

 森林限界の温度条件は熱帯から北方森林限界まで夏のエネルギー量を指標する吉良の温量指数(月平均気温℃以上の積算温度)では一定の℃・月となる。熱帯型、温帯型の境界はこの森林限界条件と常緑樹の分布を制限する最寒月平均気温マイナス℃線が交差する北緯~℃付近になる。

 以南の熱帯型垂直分布では、森林限界にはヤマモモ属、ヒメツバキなど亜熱帯・暖温帯性の樹木が優占する。この境界域はヒマラヤから雲南、台湾、さらに日本へと至る緯度域で、多くの第三紀遺存種、つまり第三紀に広分布し、その後絶滅して、特定の地域だけに生き残った種を多く有している。

 地球温暖化で気温が上昇するとこの遺存種の生育適地が失われる。中でもブータンは西から南、東南、東アジアに至るユーラシア植物相の会合点で多様な植物が分布し、多くの遺存種も見られる。多様さは人種、文化、宗教に及んでいるが、独自の文化も多く、それを培ってきた自然と合わせて維持・保全することが世界的に重要だ。

 大澤雅彦会員は、千葉大学を1968年に卒業。東京大学大学院に進学し年、富士山の垂直分布帯の研究で理学博士の学位を取得した。千葉大学、東京大学大学院教授などを歴任。ネパールやブータンで一貫して垂直分布帯を調査、マレーシア、インドネシアなどの高山でも調査を行なった。現在は、夏は中国・雲南大学に滞在し遺存種の調査、春・秋は王立ブータン大学で南ブータンの植生調査・指導を行なっている。

(2014年「山」12月号から引用)