山想倶楽部

■ 2013.02.20

高年齢者が山岳スキーを安全に楽しむための小文

 

高年齢者が山岳スキーを安全に楽しむための小文

 

 

石原 達夫

 

昨今の会の活動報告の中には事故すれすれのものを認めるし、あるいは一般に報道されている山岳スキーの事故報告等を聞くにつけ、安全な山岳スキーとは何か、特に高齢化したわがASCではこれにどう対応すべきか私見を述べたい。

 

山岳スキーの危険性の認識

山岳スキーは、歩行による登山に比べ、其の下降を機動性の高いスキーで行う性格上、快適な滑降を求めて大斜面や沢筋など雪崩危険地帯に入ることが多く、その上、自らもシュプール等で不安定な雪面を更に刺激することになり雪崩の危険は一層大きくなる。登行においてもシール登行であるので、斜面への刺激は歩行に比べて大であり、歩行雪山登山のように雪崩危険個所を避けてリッジ通しで登るということも難しい。スキー下降では、動きがスピーディであることから、迅速な危機認識と回避動作を要求される。このように歩行雪山登山よりはるかにリスクの高いことを、先ず認識すべきである。特には行動中の雪崩回避について、十分な知識と経験をふまえ、高度の注意を払い、かつ実行する必要がある。もし山岳スキーを愛好する人の出発点が夏山登山とゲレンデスキーであったとすると、この点を極めてイージーに考えてしまう傾向にあるので、注意すべきである。

 

高齢化傾向

最近の登山での死亡事故では圧倒的に高齢者が多いといわれる。もっとも登山者自体が高齢化しているので、事故も高齢者が多いのは当たり前だが、発生確率が若年者と比較して高いと云われている。そういう意味合いからも当ASCも高齢化が進み、年齢的にも危険地帯に入っている。

高齢化とともに衰えてくるのは体力的には瞬発力や持久力の低下、疲弊した場合の回復の遅さ等がある。一方メンタル的には、危機の認識力、判断能力の低下があり、更に異常が看視される状況下においても、現行動の継続のみに気をとられ、新しい行為に移るということに抵抗を感じるようになる。十分の知識がありながらそれを実施に移すことが面倒になる。適切な道具がありながらそれを使おうとしない。状況の悪化を殊更無視し、希望的観測で現状行動を続行する傾向が強くなる。かような実態があれば、残念ながら若年者より危機的な状況下では適正な行動がとれないということを認識しなければなるまい。

この様な各種の能力低下は、疲労したときにさらに著しくなる。とすれば、行動中に疲弊(バテる)してしまうような事は先ず避けねばならない。また一度疲労すると、多少の休憩では心身とも回復は見込めず、更に悪天候下では休憩する事によりかえって熱量を失い、最悪の方向に急速に進行する。こうなると、まったく動きが悪くなり、非常の場合の適切な判断、回避行動がとれなくなるばかりではなく、あるいはそれ以前に容易に低体温症になり、為す術もなく命に関わる重大なる局面におちいることになる。そこまで行かなくても、疲れてしまったら肝心の滑降に移った時、普段のスキーの実力が発揮できなく、残念な思いをすることになる。

 

安全で楽しいスキーをするには

いかなる場合でも体力の消耗による疲弊は避ける。登りで体力を消耗しないように、自分の体調に見合ったペースで登ろう。天候の悪化は体温を速やかに奪い、体力の消耗に拍車をかけることになる。常に衣服での体温調節が出来るようこまめに気を配ること。寒さを感じたらすぐ防寒着を着よう。

バテ防止のためには、極力荷物を軽くすることも必要だ。山岳スキー時の危機対応を装備のみに頼ると過剰な道具を持つことになり、ただでさえ少なくなったスタミナを消耗するばかりではなく、その結果、行動は遅くなり、肝心な快適なスキー滑降もできなくなる。最小限の装備だけを持つには、前回の山行で、何が有用で何が不要だったか、チェック表を作り、次回は前回有用だったものだけ持っていけばよい。最近はスキー用品を始め、各種の道具の軽量化が進んでいる。多少値は張るがこの様な軽量品を選ぶのもよいと思う。

用具類は山行前に十分整備し、正しく機能することを確認しておこう。折角選んで持っていった装備は適切に素早く使えるように日頃から訓練しょう。皆さんお持ちのスコップは雪洞作りに適している。非常時にはすぐ雪洞を掘れるように、頭と体に覚えさせておこう。風雪の雪山ではツエルトはあまり有効ではない。よくてせいぜい短時間の風除け程度にしか役立たない。雪洞なら安全にひと夜を過ごせる。この場合に役立つ軽いレスキューシートは必需品だ。春先の雪面ではクトーが意外と役立つ。登りで一寸のスリップでも積み重なると大変疲れる。適切にクトーを使えば随分と登りが楽になる。

早朝のやや急な斜面や、ショートカットとうで急斜面に登りをとる時にはアイゼンを使うことになるが、兼用靴でも足首が必要十分に曲がらないので、12本アイゼンが適している。ただ12本アイゼンを履いていて転倒すると、仰向けになって滑落する事がある。この場合、安全に停止するにはピッケルが必要だ。ピッケルによる滑落停止が出来るようにしておこう。なお登りにアイゼンを必要とした斜面は、雪質が軟化しない限り、アイゼンで下るべきである。スキーで滑降することは厳禁である。

さて、雪崩の危険については必要以上に注意を払わなければならない。面倒がらず先人としての知識を実践にしてほしい。いずれの方法でもよいが、雪層チェックは必ずしなければならない。いちいち挙げないが、雪崩発生の可能性が少しでもある様な斜面の通過時の基本事項、禁止事項はぜひ守ってもらいたい。

 

コンテンジェンシープラン

これは、基本的には、種々の起りうる異常ケースを勘案して総合的に立案するものだが、要はいかにして無事麓に戻るかということに帰す。しかし、我々が通常計画する程度の山岳スキーでは、幾つかの可能性の高い危険に直面した場合の対応プラン作成で十分だと思う。よく現場で判断すればよい、という方がおられるが、現場の判断は現状維持というイージーなものになりやすく、結果として最悪を招きかねない。事前に全員がプランそのものをよく理解し、現場で最善の選択が出来るようにしておかなければならない。行動を中止して戻るという選択は、往々にして最も重要なものとなる。

 

終わりに 

高齢者の山岳スキーは楽しむことが第一である。一部の例外者を除き、チャレンジングやアグレッシブな山岳スキーの年頃は既に終わったと認識すべきであろう。

行動中でも、天候が悪化したり、積雪の状況が雪崩やすいと思われたり、あるいは困難なスキー滑降を強いられそうだ、と思ったならば、もう楽しいスキーではないので、ここで潔く諦めて戻ろう。体調が良くないと思われたらそこで戻ろう、無理をして心不全を招いたり、あるいは疲弊して取り返しのつかない事になったら大変だ。

楽しいスキーのみ目指す、これが高齢者の安全スキーの基本だと思う。

 

「雪上散歩」no.22 2012より引用