新宿駅からのJRホリデー快速おくたま3号は、コロナウイルスによる外出自粛のなかにあって、長雨が続いた後の秋晴とあってか、予想もしなかった大勢の乗客で満員状態。
出発地点の御嶽駅から次々と降り立った山行きらしき人々を見て、自分もその中の一人ではあるけれど ウウーンと思いつつも、渡辺さんのことだから多分という予測は的中、向かった登山口は私達三人だけ。
9時30分、「これから急登が30分ほど続きます」という声に、身を引き締めて、三つの鉄塔を超え尾根道が見えてきたところで一休み。
道の両側は植林杉林で、進行方向右側は間伐された長さ3m程の細い丸太が斜面を覆いつくしている。
それでも光を遮っているのだから、植林を始めた当時の木材不足に対する逼迫した様子が見て取れるように思えた。
このコースの目安の一つ、杉の大木が見えてくる。傍らには小さな祠もある。「樹齢は200年、それとも300年位かな」先ほど間伐材の年輪を指で数えていた渡辺さんが言う。 先日、スペインの友人が、大木の写真を送ってくれたが、日本に限らず、どこの国の人も人間の一生より長い間存在し続けている生命には畏敬の念を抱くものだと思う。 急登の後の山道は粘土質の赤茶色の土もあれば、少し青みかかった裂石に覆われているところもある。僅かに差し込む光に向いて真っ赤な実をつけたマムシ草に目が止まる。
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両側杉植林の尾根道
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杉の大木
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杉の巨木前で
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尾根道の斜面を覆いつくす間伐材
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尾根道の片側には岩のある所もある
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マムシ草
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歩き始めて約2時間、11時20分、第一目的地の惣岳山(756m)到着。
といっても渡辺さんと小松さんのお二人が遅れて到着した私を待っての事ではあるけれど。
薄暗い杉の植林地帯の中で歩を進める先に、突然、思いもよらぬ明るさが現れる。右側の足元の急斜面から始まって東南方向に、相当に大規模な伐採が行われていたためだった。
遅れて歩く私の視界の先に、逆光を受けた二人の姿が見えた。「スカイツリーが見える、その隣に見えるのは杉林ならぬビル群。」小松さんが指しながら言う声が聞こえる。
しばらくの間、私達はその光景に見入った。伐採された山肌は地図の等高線を見ているように見える。 そして少し薄緑の草に覆われたその地形は私には国宝「日月山水図」の山並みを思い出させもした。
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三本大杉の尾根道
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惣岳山山頂
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逆光に浮かび上がる渡辺さんと小松さん
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山肌の稜線を見せる山並み
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スカイツリー
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伐採作業の痕跡を残す櫓
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惣岳山を後にし、途中の岩山の登降りでは気を締め、岩茸石山を目にしたころには空腹を感じる余裕も出て、少し色づき始めた落葉樹の中に赤いナナカマドの紅葉や秋の麒麟草などを認めながら、50分程かけて、12時20分に高水三山の最高峰岩茸石山(793m)に到着。
途中、渡辺さんの「上はどうですか」の問いに「人で一杯です」の下山者の返答の通り、子供連れ、先生に引率された中学生、外国語で話す人たち等々、頂上は昼食を取る人達で一杯。
でも、みんな、なんだか楽しそう。皆、久しぶりに木々に包まれた自然の中で、人間らしさを再確認しているかのようにも思える。
東北東方向に筑波山、東南東に東京を見下ろしながら私達も昼食、渡辺さん手作りのシソの実漬けと酢醤油付けした栃木の青唐辛子をいただく、実はわたしは次の日早速青唐辛子の酢醤油漬けを実行。
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白い花をつけた低木草(名は?)
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アキノキリンソウ
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岩茸石山山頂付近の色づき
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岩茸石山山頂
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御岳山・御前山遠望
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朴の枯葉が山の斜面を覆っている
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充分休息し、第三の目的地、高水山(755m)に13時30分到着。
高水山を少し下ったところにある真言宗高水山常福院の群青色を残す不動院の彫刻や扁額を見て、やれやれと思っていると「これからが長くて、きついんです」という渡辺さんの声で、左に折れて沢沿いに。
夏の大雨で荒れ模様の沢道、段差が45cm以上ほどもある木杭階段でへとへと、加えて平溝川との合流地点にある高源寺手前の急坂降りで私の体はマリオネットのよう。 平溝川沿いの車道を下り、急坂を登り、ついに終着地の軍畑駅に到着。
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高水山山頂
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高水山常福院
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麓でなめこを販売、天然か否か
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平溝川沿いの車道に沿う石垣
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予定していた河辺温泉梅の湯は今日の人込みを考えてパスし、拝島駅で降り、4時から営業している店を偶然見つけることが出来、入店。 「ああー、うまい」のお二人の様子につられ、普段は飲まない私もジョッキ半分程飲む。
確かに旨い。店を出ると短い商店街に挟まれた道路の先の夜空に、半月が輝いていた。
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