「山の日」レポート集2010-2014お知らせ

■ 2012.04.09

私たちは山の日制定に向けて何をすべきか 渡辺悌二(オピニオン)

 

私たちは山の日制定に向けて何をすべきか

              渡辺悌二 (プロジェクトチーム委員)

山の日制定には,政府や地方自治体への働きかけ,関連産業界への働きかけなどが不可欠である。しかしそうした活動とは別に,そろそろ,私たちJAC会員が日頃から行うべきことを考え,行動に移してみるべきではないだろうか。

JACの会員への期待

JAC会員は,山の日制定に向けて何をすべきか?実は私自身にも明確な答えはない。というよりも答えは無数にあるというべきかもしれない。ただ,私が心配に感じていることは,JAC会員が自分たちだけで何かをしようとしているのではないかということである。もちろん山の日制定に向けた活動の企画は会員が中心となって行えば良い。しかし,それは自分たちのために行うべきものではない。

JAC会員に期待される活動は,自分たちのための活動ではなく,他人のために行う活動だ。JAC会員は,一人でも多くの国民が,山と親しめる場,山について考え・議論できる場,山で活動できる場を提供することに徹すべきである。言い換えれば,山に一度も登ったことのない人たちを含めた多くの国民が,山との距離を小さくできるように「仕掛けること」がJAC会員に求められている。山の日制定に向けた活動も制定後の山の日の活動も,主役はJAC会員ではないのだ。そもそも,山の日が,山岳諸団体の会員自身のための一日であるならば,国民レベルで山の日を考える必要などまったくない。

では,いったい誰をターゲットに仕掛ければ良いのだろうか?将来的には,山の日に実施する活動を毎年繰り返すことで,多くの国民に対象を広げていくことは可能である。しかし,まずは,山に少しでも興味を持っている人たちから声をかけ始めるのが良いであろう。

登山者の変化

中高年層に著しく偏っていた日本の登山者層は変わりつつあるという。山ガールという言葉が使われ始めてすでに何年かが経過した。私は以前,森林関係の雑誌に,山ガールに関する財団法人日本交通公社の調査結果を紹介したことがある。山ガールは若いオトコ(ここでは山ボーイと呼ぶことにする)も山に連れてきているようで,それが財団法人日本交通公社の調査結果にも現れている。山ガールと山ボーイが登山をすれば,次に期待できるのは子どもたちの参加である。

JAC北海道支部には,「子ども」をターゲットに活動を行ってきた実績がある。参加する子どもにもその親にも山の日の意義をアピールしつつ(頭の洗脳),外で遊ぶことと山で遊ぶことの楽しさを体で覚えてもらう(体の洗脳)。私自身はこの活動に参加する機会を得たことはないが,これは大事にすべき活動であろう。

山ガールの出現は,日本の山の将来にとってきわめて重要なことだ。いや,山に登る若い女性が目の前にたくさんいることが「景観」上良いと言いたいのではなく(実際にはそうかもしれないが),山ガールの出現は,日本の山の自然保護と管理の将来を左右する可能性があるのである。

山の自然保護と管理

人が入らない山は荒れる。山の自然保護には管理が必要である。私たちはこれまで過剰利用の問題ばかりを考えてきた。しかしこの先,過剰利用はいつまでも続くのであろうか?実際に,多くの山で登山者数はすでに減少をし始めているものと考えられる。

すでに荒廃してしまった山において,利用が将来にわたって減少すると,管理が行き届かなくなり,さらに荒廃が進行することになる。そうなれば国民は山に無関心になり,悪循環が生じてしまう。登山道の管理にしても,森林の管理にしても,今後の少子化社会の中では,いかにより多くの人に山に関心を持ってもらうのかが重要になる。

私自身を含めてJAC会員の多くは中高年を迎えている。山ガールと山ボーイ,それに子どもたちは,私たちよりも確実にずっと長きにわたって山とつきあうことができる。だからこそ,私たちは,山ガールと山ボーイの出現を歓迎すべきで,さらには子どもたちに山の魅力を知ってもらい,子どもたちを山に引き込むべきだ。こうした年齢層の人たちを快く迎えることが,JAC会員をはじめとする山岳諸団体の年配会員たちに課せられた役割だろう。

若者の多くがファッションを楽しみたいと思い,あるいは日常生活から解放されたいと思って山に来るとすれば,登山の基礎技術や知識なしに入山するケースが増加する。すべての人がガイドと一緒に行動してくれれば良いが,それは期待できない。若者たちに登山の基礎技術や知識を与えようという動きはすでに始まっており,さらにその動きを広めていく必要がある。何よりもまずは,山の中で若者たちに声をかけることから始めるだけでも良い。山の自然保護も管理も,あるいはどのような活動も,安心して楽しめる環境が確保されてはじめて可能となる。

終わりに

私たちがいくら「山の日を制定しよう!」と叫んでも,「なぜ,山の日が大事なのか」と説教をしても,山に登ったことのない人の心はなかなか掴めないだろう。そもそも日本人であれば,山を大切にすべきことくらいは頭の中では理解できている。

JACだけではなく多くの山岳団体が高齢化の問題を抱えているが,技術・知識・経験を持った中高年会員の存在と,若い登山者層の出現は,山への関心を次世代に引き継ぐ格好のセッティングに違いない。この好機を逃せば日本の山の文化の将来はない。山の日は,山への関心を次世代にバトンタッチする日であり,JAC会員にはそのための大きな役割がある。

(北海道支部員、支部報「ヌプリ」42号=2012年年4月発行に掲載)