「山の日」レポート集2010-2014お知らせ

■ 2013.08.14

[報告]「山の日」祝日制定への新たな展開

山岳5団体の「山の日」運動
4年目、祝日制定へ新たな展開
 
「山の日」制定協議会代表幹事
成 川 隆 顕
 
私たち山岳5団体が、山の国・日本に国民の祝日「山の日」をつくろうという運動に取り組んで4年目に入った。これまでの経緯と現況を説明し、皆さんのご理解とご支援、運動への参加をお願いしたい。そして山の恵みに感謝し、山との深いかかわりを考え、美しく豊かな自然を次の世代に引継ぐために、力を結集したい――。
 
□「山の日」づくりを国民運動に
まずはこの運動の始まりである。
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日本山岳会の「山の日」制定運動は2009年の秋にスタートした。以下は、そのとき発表したアピールの一部である。
『わが国土は、7割近くが広い意味での山でありその多くを森林が覆っています。古くから日本人は山を信仰の対象として崇め、森林の豊かな恵みに感謝し、自然とともに生きてきました。山の恩恵は渓谷の清流を生み、わが国を囲む海へと流れ、美しい山なみは豊かな心を育んできました』。
山を連ねた日本列島に、だから「山の日を」つくろうではないか、と続きます。

 

『わが国の文化は「山の文化」と「海の文化」の融合によってその根幹が形成されてきたといわれています。わが国においては既に「海の日」が制定され国民の祝日になっています。にもかかわらず、「山の日」がないのはなぜなのか、疑問を抱く人は多いと思います。
日本山岳会は、国民祝日としての「山の日」の制定を提案します。「山の日」は、日々の生活と文化に結びついた山の恵みに感謝するとともに、美しく豊かな自然を守り、育て、次世
代に引き継ぐことを国民のすべてが銘記する日です』。
日本山岳会は明治39年に創設された。設立の主旨書のなかに、「山は人生と深くかかわっており、大地と人間の関係を極めようとすれば山岳に入るべきである」という趣旨の言葉がある。「日本は山国であり、名山の多く並ぶさまは、高さこそ及ばないもののヨーロッパアルプスに比べても決して劣らない。変化に富む山々を極めるのは永遠の大事業なり」そういって山岳愛好家に結集を呼びかけている。
それから100年余、登山・山岳にかかわる団体として、高

 

く険しい山への挑戦だけでなく、さまざまな企画、事業をとおして山を楽しみ、安全の確保、自然環境問題などと取り組んできた。
公益社団法人となった現在の会則にも、「本会は、山岳に関する研究並びに知識
の普
及及び健全な登山指導、奨励をなし、(中略)登山を通じてあまねく体育、文化及び自然愛護精神の
揚をはかることを目的とする」と明記している。
「山の日」制定の提案はこの目的に沿ったものである。私たちは「山の日」制定プロジェクトを立ち上げた。からだと心の健康、自然環境の保全、災害や事故への備えなどの課題にどう対応するか、どうすれば若者たちを山に引きつけることが出来るか、全国31の支部に呼びかけ制定運動を全国的に繰り広げるなかで、さまざまな課題と向き合っていこうと考えた。
 
□山岳5団体の協議会

 

もちろん、日本山岳会だけで背負える課題ではなかった。3年前の4月、山岳団
体に呼びかけて「山の日」制定協議会をつくった。連携した5団体は、①日本体育協会に所属し47都道府県にネットワークがある日本山岳協会、②職場や地域の登山グループをまとめた日本勤労者山岳連盟、③個人会員のクラブ組織で各地に支部を持つ日本山岳会、④山岳ガイド、自然ガイドのプロ集団である日本山岳ガイド協会、それに、⑤山岳環境保護活動を行う日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HAT―J)である。

 

5団体に加盟している人の数は合わせて10万人。1000万人ともいわれる登山人口からみればそう多くはない。しかし、それぞれのグループのやり方を尊重しながら、呼びかけの輪を広げれば、風が起きて大きな力になるかもしれない。なにかが動かせると思った。
 
□運動の進め方と広がり
運動の手始めに《山を考える/「山の日」をつくろう》と
いうリーフレットを10万枚つくり、協議会発足と同時に5団体のネットワークを通じて配布した。中学生や高校生、家族で読んでもらおうとクイズ付きに。山の《知識》を問う第1弾が好評なので、続いて《健康》」《安全》《動物》をテーマに取り上げ、2年間で4つのシリーズ(い
ずれも10万部)を発行した。どのリーフレットにも『「山の日」をつくろう』のアピ
ールページがあり、制定運動に対する理解と支援をお願いした。
山岳5団体の協議会は各団体から選ばれた幹事(担当役
員、理事ら)が出席して2か月に1回のペースで開催。時間的にも資金的にも
制約があるなかで、3年くらいで何らかの成果を挙げようと作業を進めていった。
「山の日」推進のためには関係する中央省庁や地方自治体を始めさまざまな方々の
支援・協力が必要だった。アタマ
では分かっているのだが手を広げるのは容易ではなかった。
公益法人法が施行され、団体や組織の中にいる人のためだけでなく、活動に公益性が求められる時期と重なった。「山の日」制定という目標には利害や権益に直接結びつく要素が少ないので周りを気にする必要はなく、運動としてすっきりしているが、外部に働きかけるためのパワー
不足は否めない。
ご承知のように日本山岳会や日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟のホームページには「山の日」のページが掲載され、運動のバックグラウンドを詳しく説明し、協力支援を呼びかけ
ている。取り上げているテーマは、自然保護や地域での活動報告など、現状分析、聞題提起と
して読んでも貴重だと思う。
ちなみに、「山の日」づくりの呼びかけが2002年、国連が提唱した「国際山岳年」
で行われていることも、このホームページで理解していただけると思う。《日本に「山の日」を作ろう》との提案は、日本委員会が主催した同年7月の「富士山エコ・フォーラム」で採択され、報告書『我ら皆山の民』のページに掲載されている。
ネットには、栃木県日光市に住む著名な作曲家の船村徹さんが、2008年9月、地元紙の下野新聞で《「山の日」をつくろう》と呼びかけている記事も転載されている。「山は心の
ふるさと
。『海の日』があるのだから『山の日』があってしかるべき」と論旨は明快だ。
 
□関東知事会議が要望
そうしたなか、関東知事会(東京、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨、静岡、長野の一都九県で構成)で、私たちを勇気づける画期的な動きがあった。2011年10月の定例会議のなかで、祝日としての「山の日」の制定を国に要望すると決めたのだ。「山の日」を祝日にという要望は、過去にも長野県や宮城県の県議会から提出されていたが、自治体トップの集まりが、まとまって要望を出
したのは初めてのことで、いくつかの新聞がかなり大きく取りあげた。提案したのは栃木県の福田富一知事で、長野県の阿部守一知事らが率先して支持の意見を述べたという。
 
□ネットワーク東京会議の開催
咋年の10月3日、当協議会は東京代々木のオリンピック記念青少年総合センターで《 ~みんなで山を考えよう~ 「山の日」ネットワーク東京会議》を開いた。
会議には「山の日」に関わる環境、文部科学、国土交通、林野、観光といった省庁、地方自治体、環境保全団体、野外活動グループ、研究者、観光業、山小屋代表、それに山岳5団体を合わせて100人余が参加した。
この会議でわたしたちは、夏山シーズン前の6月第1日曜日を《全国いっせいの「山の日」》にしようと提案した。採決をとったわけではないが提案は、拍手とともに大方の賛同を得た。ひとつの提案に過ぎないという見方もあろうが、日にちの特定は、議論を前に進める意味でも必要だった。
ご存知のように国民の祝日は国会が決める事案で、祝日法の改正が必要である。わたし達のような民間の任意団体が制定をアピールしたり地方自治体が要望書、意見書をだすのは自由だが、省庁など行政機関が踏み込むわけにいかない。そこで提案に当たって《国民祝日「山の日」》という言葉を避け、開催する会議の名称も、みんなが参加しやすいよう情報交換の意味合いを強くして「山を考えるネットワーク東京会議」とした。
東京会議は日本山岳協会の尾形好雄専務理事の司会で始まった。長野県の阿部知事、丸川珠代参院議員、環境省の星野一昭審議官、さらに5団体を代表して日本山岳会の尾上昇会長が挨拶した。阿部知事は「長野県と中央省庁、制定協議会、山や森に関わる団体が連携し、立法府に働きかけながらの運動が必要だ」と提言した。特別講演は船村徹さんで『山は心のふるさと』と題して子どものころから親しんだ山への思いを語り、「山の日」制定への協力を呼びかけた。
いま各地には「山」や「森」を冠した記念日や期間が数多くある。それぞれの行事内容を逐一調べ、どちらもないのは16の都道府県だ、などの調査結果を市川貴大さん=農学博士=がまとめている。会議のプログラムに詳しく載せた。
東京会議の第1部は各地からの取り組み報告。
身近な里山づくりから「山の日」運動を育て、民間と行政が一体となって県内の11会場でイベントを行うまでになった広島、毎年6月から窮9月にかけて50余の行事を繰り広げている山梨、全国育樹祭をきっかけに「山と森の月間」を始めた群馬、「岳都」をうたって2年連続1000人規模のフォーラムを開いた松本市、「山の日」準備中の栃木県から報告があった。
第2部はシンポジウム「山の自然環境保全」。司会は公益社団法人・日本環境教育フォーラムの岡島成行理事長が担当、環境省自然ふれあい推進室の堀上勝室長、一方、「民」の立場から《環境管理林業》として世界的に高い評価を受けている三重県の速水林業・速水亨代表が「多くの人々に感動を与える森林を育てたい」と抱負を語った。
第3部は「次世代につなぐ山」。山岳ジャーナリストの大蔵喜福さんの司会で、ファミリー登山教室を毎シーズン開いている北ア・燕山荘の赤沼健至オーナー、必須授業として夏山登山実施の成城学園中学校・久保昌之教諭、文部科学省スポーツ・青少年局の藤原一成教育官が、子どものころからの登山経験の大切さを、実践に基づいて語った。 
この東京会議で「山の日」制定運動の第一段階である基礎固めはかなりの程度完成に近づいた。5団体の枠を超えて底辺を広げ、全国的な規模の「山の日制定全国協議会」(仮称)に進む確かな足掛かりを得たと確信した。
 
□超党派国会議員連盟の発足
「山の日」を祝日にするには国会による国民祝日法の改正が必要なことは前に述べた。全国レベルで「山の日」づくりの機運が盛り上るのと並行して、運動のスタート当初から国会議員への働きかけをしていた。東日本大震災、原子力発電所の爆発事故、放射能汚染対策で「山の日」どころでない2年間が経過した。
今年の4月10日、超党派の国会議員による「山の日」制定議員連盟が設立された。衆議院の元副議長・衛藤征士郎さんが会長で、参院議員・丸川珠代さんが幹事長、長野県選出の衆院議員・務台俊介さんが事務局長である。民主党など7つの党派から副会長が出て、6月末現在の加盟議員数は衆参あわせて100人。最高顧問は、日本山岳ガイド協会の会長を橋本龍太郎さん(故人)から引き継いだ谷垣禎一さんである。
5月から6月にかけて毎週1回、国会審議が始まる前に勉強会を開き、省庁の担当者を呼んで祝日法、労働日数(時間)と休暇、山の遭難事故、自然保護、入山税、富士山信仰などのテーマでヒアリングと質疑応答を重ねている(当協議会からは、代表がオブザーバー出席)。6月21日は医学博士・登山家の今井通子さんが講師で「生涯の楽しみとしての登山」を語り、日本人と山、山歩きと健康、森林浴の効用、さらには登山経験と個々の能力開発との関係にまで話を広げて、充実した1時間だった。
衛藤会長は来年1月の通常国会までに準備を整え、「山の日」を祝日にするための議案を提出したいといっている。
 
□全国協議会の構想と将来展望
一方、山岳5団体による「山の日」制定協議会はひとまずその役割を終えて発展的に解消することとし、新年度からあらたな組織を構築する準備に入った。新組織の枠組みは山、里山、森林、渓谷、河川など、国土の自然に関わるすべての活動に範囲を広げ、環境、地域活性、教育、健康、安全、文化、学術、観光、交通などの分野を結集して国民ネットワークをつくろうと考えている。もちろん山岳団体も新組織の中で、それなりの役割を果たすことになる。
設立には民間の個人、団体、企業、政治家、地方自治体、官公庁が一緒になって取り組むこととし、当面、準備事務局を日本山岳ガイド協会(磯野剛太理事長)に置いた。
仮に『全国「山の日」制定協議会』と名づけよう。全国協議会は国会の超党派議員連盟と同じく国民祝日としての「山の日」制定をめざして運動計画を検討している。
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昨年10月の「山の日」ネットワーク東京会議以降、各地で山岳団体による「山の日」運動への取り組みが盛んになりつつある。ことしは、東京会議で6月の第1日曜日を「山の日」にしようと提案して迎えた最初の6月ではあった。
その第1日曜日(6月2日)、上高地では日本山岳会が主催する第67回のウェストン祭があった。ウェストン祭は、いわば上高地の「山の日」である。250人が集まった会場で《「山の日」をつくろう》がアピールされた。
東京では高尾山の山麓で、私たち山岳5団体が主催するアピール集会が行われ、2000人余の登山者にアピール文が手渡された。東京の山でのアピール活動は初めてである。
栃木県の宇都宮市でも「山の日」集会が栃木山岳連盟などの実行委員会によって開かれ、福田知事も出席して挨拶した。
富山市では県民会館で第1回山の日講演会が開かれ、槍ヶ岳を開山した播隆上人の人と生涯が語られた。前日の1日は第28回播隆祭だった。
広島では12回目を迎えた『ひろしま「山の日」県民の集い』。6月第1日曜日の行事としてすっかり定着し、雨のなか12の会場に合わせて3100人が集まった。
その後、山梨では恒例の「山の博覧会」(29日)、名古屋では初めての「夏山フェスタ」(29、30日)。いずれも6月のイベントで「山の日」がらみである。
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6月22日、富士山の世界文化遺産決定のニュースが入ってきた。三保の松原を含む世界遺産登録で、申請当初の《山》そのものを対象とした自然遺産でなく、信仰の対象、芸術の源としての《文化遺産・富士山》が全員一致で支持されたという。テレビはどこも地元、静岡や山梨の歓迎ぶりと喜びを伝え、安倍首相は「富士山は日本人の心のよりどころ。世界中の人に見に来てもらいた」と話していた。
世界遺産登録―。結構なことだと思う。長いあいだ登録運動を進めてきた静岡、山梨の関係者に「おめでとう」と言いたい。同時に私には違った感想もあって、文章にすると以下のようになろうか。
「富士山は、美しくて、歴史があって、大切にしたい山の一つではあります。けれどもそれとは別に、日本列島に住む多くの人々が、それぞれの心の中にふるさとの山を持っています。高くはなくても、それは大切で懐かしい山です。ですから『山の日』をつくって、山の恵みに感謝しましょう。なんといっても、日本は山の国です」。