「山の日」事業委員会お知らせ

■ 2015.08.28

オピニオン:「山の日」制定 その意義と地域振興への期待

国民の祝日「山の日」制定

その意義と地域振興への期待

 成川隆顕(全国「山の日」協議会 顧問)

 

国民の祝日「山の日」が2016年から施行される。新しい祝日はお盆休みにつながる8月11日。「山の日」制定の趣旨は《 山に親しむ機会を得て、山の恵みに感謝する 》とされている。

国土の70パーセントを山地が占めるわが国は、山や森が日常生活に深く関わり、さまざまな恩恵を受けている。そのことを改めて認識し、山に親しみ、山を大切にし、恩恵に感謝する日にしよう、ということである。「海の日」とともに自然そのものを対象にした2つの祝日を持つ国は世界でもほかに例がなかろう。日本人は自然とともに生きているということだ。

国会で8月11日が「山の日」と決まったのは昨年の5月である。とはいえ祝日「山の日」を知る人は正直なところ少なかった。関心を持たれなかった。超党派の議員連盟が手際よく、スピーディーに作業を進めたこともあって、その意義について国民的な認識と理解は不足していた。施行までの2年間、全国「山の日」協議会がやるべきことは多い。祝日を意義ある日とするための全国行動だ。周知のための活動展開である。

□全国「山の日」フォーラムの開催

『 ~みんなで山を考えよう~ 全国「山の日」フォーラム 』がことしの3月28日、29日の両日、都心の東京国際フォーラムで開かれた。イベントの実行委員会は、全国「山の日」協議会に加えて警察庁、消防庁、文部科学省、林野庁、国土交通省観光庁、環境省、東京都で構成された。会長は全国協議会の会長で衆議院議員の谷垣禎一さんが務めた。シンポジウム、屋外トークショーのほか、広いガラス棟には自治体や団体、企業のアピールブースが50以上並び、およそ18,000人が会場を訪れた。若者や家族連れも多かった

フォーラムの柱になったのは山岳界の著名人や山・森林、自然災害・山岳遭難防止などにかかわる有識者による講演、パネルディスカッションだった。

1日目のメーンテーマは《 「山の日」と「地方創生」 》。第一部ではエコツーリズム、ロングトレイル、観光を地域の活力につなげる観点から取り上げ、二部では「新しい森林の創生」をテーマに、岡山、岩手から報告があり、さらに専門家による森林セラピーの勧めなどが語られた。

2日目のテーマは「山と自然の安全」。第一部では遭難救助の現場からの報告と登山届の現状と問題点が、 二部では安全のための知識と方法が、子供たちの自然活動、登山者に必要な体力、山の危険防止などの視点から取り上げられた。いずれもこれからの「山の日」運動で欠かせないテーマが選ばれた。周知の遅れを取り戻すためのイベントだった。

□  「山の日」運動の始まり / 国際山岳年

ここで「山の日運動」の経緯を紹介したい。山をうやまい、山に親しみ、山の恵みに感謝するという行事は、はるか昔からあった。4月中旬から6月にかけ、各地の山で行われる「山開き」はその原点である。明治以降も山は日本人の生活とともにあり、昭和30年代には登山ブームが山への関心を高めた。

最近では…。2002年は国連が提唱した「国際山岳年」だった。山岳地域の環境問題に取り組み、持続可能な山岳開発をテーマにした。わが国でも山岳団体や学識者らによって国際山岳年日本委員会が組織され、環境省や地方自治体、公共機関、大学などの協力と支援で2003年の7月まで全国各地で精力的に活動を展開した。なかでも2002年7月、静岡県富士宮市で開催された「富士山エコ・フォーラム」には地元の小中学生も参加し、富士山と向き合った学習の成果を報告し、富士山からのメッセージを読み上げた。日本委員会の名前で国の内外に向けて発信されたメッセージには、環境破壊への戒めと山の自然を守る誓いが盛り込まれ、『 毎年そういう思いを新たにするため日本に「山の日」を作ることを提案します』と書かれている。日本委員会の仕事はその後ネット上の組織に引き継がれたが、山の日制定の提案は残念ながら実現への行動には結びつかず、それ以上前には進まなかった。

□山岳5団体による「山の日」制定協議会

日本山岳会が音頭をとり、山岳5団体が国民の祝日として「山の日」をつくろうという取り組みをスタートさせたのは2010年の4月である。連携した5団体は ①日本体育協会に所属し47都道府県の山岳連盟(協会)を統括する日本山岳協会 ②主として職場や地域の登山グループをまとめた日本勤労者山岳連盟 ③個人会員のクラブ組織で各地に支部を持つ日本山岳会 ④山岳ガイド、自然ガイドのプロ集団である日本山岳ガイド協会 ⑤山岳環境保護活動を行う日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラストである。

5団体に加盟している人の数は合わせて10万人。非力だが呼びかけの輪を広げれば風が起きて大きな力になる、なにかが動かせると思った。運動の手始めに《山を考える/「山の日」をつくろう》というリーフレットを10万部つくり、5団体のネットワークを通じて配布した。中学生や高校生、家庭でも興味を持ってもらおうとクイズのページをつくった。《富士山の次に高い山は?》など山の《知識》を問う第1弾が好評なので、続いて《健康》《安全》《動物》をテーマに取り上げ、2年間で4つのシリーズを発行した。どのリーフレットにも以下のような『「山の日」をつくろう』のアピールページがあり、制定運動に対する理解と支援をお願いした。

『日本は山の国です。古くから日本人は山に畏敬の念を抱き、森林の恵みに感謝し、自然とともに生きてきました。山の恩恵は渓谷の清流を生み、わが国を囲む海へと流れ、深く日常生活とかかわりながら、豊かな心をも育んできました。わが国の文化は、「山の文化」と「海の文化」の融合によってその根幹が形成されたといわれます。
わたしたちは、国民祝日としての「山の日」制定を提案します。「山の日」は、美しく豊かな自然を守り、次世代に引き継ぐことを国民のすべてが銘記する日です。祝日「海の日」と対をなして、皆が山との深いかかわりを考える日にしたいと思います。山々がからだの健康や心の健康に欠くことのできないフィールドであることを再確認し、登山の楽しみを広く伝えたいと念願します。わたしたちの提案に賛同され、より多くの方々、団体より、ご理解とご支援、ご協力を賜りますようお願いいたします』

アピールは「山の日」が「登山の日」ではなく、山を幅広くとらえた国民運動であることを訴える内容である。

□3.11大震災と「山の日」/ ネットワーク東京会議 / 超党派議員連盟の発足

運動が軌道に乗り始め、国会議員への働きかけを本格化させようとした矢先の2011年3月、東日本大震災が起きた。福島の原発が爆発した。「山の日」づくりは津波と放射能汚染で吹き飛ばされた。しかし自然の脅威は海だけでなく山にもあって、自然保護、災害防止、遭難防止などの観点から、もっと多くの人が、「山の日」制定にもっと深い関心と理解をもつ必要があると考えた。海からの大災害を受け止め、だからこそ、「山の日」をつくろうという運動にはますます意義がある。放置されたままの山や森は荒廃し、災害をもたらす。… 山のことをみんなで考えよう。

3.11で運動は一時停滞したが、わたしたちの運動はやがてパワーを取り戻す。2012年10月には代々木のオリンピック記念青少年センターで《 ~みんなで山を考えよう~ 「山の日」ネットワーク東京会議 》を開いた。

会議には「山の日」に関わる環境、林野といった省庁、地方自治体、環境保全団体、野外活動グループ、研究者、観光業、山小屋代表、それに山岳5団体など合わせて100人余が参加した。メディアも関心を寄せてくれた。第1部は「各地からの取り組み報告」。第2部はシンポジウム「山の自然環境保全」。第3部は「次世代につなぐ山」である。地域の特徴を生かして10年以上前から「山の日」と取り組んできた広島、山梨などから、すぐれて貴重な報告があった。

特別講演は作曲家で文化功労者の船村徹さん。『山は心のふるさと』と題して子どものころから親しんだ山への思いを語った。栃木県塩谷町の出身、地元下野新聞の客員論説委員でもある船村さんは2008年9月、同紙のコラム欄に『「山の日」をつくろう』と題するメッセージを寄せて『山と川と海はつながっている。山と海は親友であり一体だ』と書き、「海の日」があるのに「山の日」がないのはおかしい、と国民の祝日制定を訴えていた。

2013年4月、超党派の国会議員による「山の日」制定議員連盟が設立された。衆議院の元副議長・衛藤征士郎さんが会長で、参議院の丸川珠代さんが幹事長、長野県選出の衆議院議員・務台俊介さんが事務局長である。半年後には衆参合わせて110人が加盟した。最高顧問は、衆議院議員で日本山岳ガイド協会々長の谷垣禎一さんである。運動は一気に加速し、政治家ペースとなった。

年が明けた2014年1月、超党派議員連盟は祝日法改正案を決めた。3月、法案は国会に提出され、ごく一部の議員が手順に異議を唱えたが、衆参両院ともも賛成多数で可決され、5月23日、成立した。先に紹介した山岳5団体のアピールは《 山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する 》という祝日制定の趣旨に凝縮された。

□2013年11月/ 全国「山の日」制定協議会スタート

こうした超党派議員連盟の動きと並行して、2013年の3月以降、国民運動展開の母体となる新しい組織の構築作業が進められた。全国「山の日」制定協議会の設立である。超党派議員連盟の代表、地方自治体のトップ、法人・企業の賛同者、学者・有識者、それに山岳5団体が呼びかけ人になって、11月11日、東京で設立総会が開かれ、会長に谷垣さんが選ばれた。衛藤さんは会長代行,副会長に日本山岳会前会長の尾上昇さんらが就任した。事務局長は日本山岳ガイド協会の磯野剛太理事長である。

全国「山の日」制定協議会は当面150の法人・団体、200人以上の個人会員獲得を目指した。年会費で運営する任意団体で、広く国民の理解を得るための各種事業、とくに周知のための集会や、イベントの開催に力を注ぐことにした。その後制定協議会は2014年3月の臨時総会で、それまで《「山の日」を制定し祝日とする》とだけ規定していた会の目的条項に《 「山の日」を制定し、その意義を広く国民に伝え、「山の日」にかかる広範な分野の発展に寄与すること 》と、制定以後の運動展開を付け加えた。素早い国会での動きに合わせるためであり、法案成立を受けた同年5月26日の総会では会の名前から「制定」を外して現在の全国「山の日」協議会と改めた。

この目的に沿った大がかりな企画が、前述の「山の日」フォーラムである。《 みんなで山を考えよう 》と呼びかけたこのイベントでわたしたち全国協議会は、有意義な祝日「山の日」の施行に向けて第一歩を踏み出したと確信した。いま、地域の活性化、関連企業との連携、安全対策と健康づくりなどに、長期的な展望が求められていると思う。 

□  「山の日」を地域振興に生かそう

とりわけ地域の活性化は重要な課題である。地域に密着した活動がなければ祝日「山の日」は制定の意義を失うことになろう。美しい自然を次世代に引き継ぐという目標は、地域での、地域の特徴を生かした取り組みなしには考えられない。自然環境の保全、森林づくり、山地の防災、水源涵養、登山、登山道の整備、アウトドアライフ、健康づくり、観光、ふるさと回帰などなど。いずれも地域に密着した活動があって初めて成立する。

地方自治体、関係諸団体、民間企業、そして参加者である地域住民が力を合わせる必要がある。山はそれぞれの地域にとって貴重な財産である。地域にふさわしい目標を設定してプランを立て、実行に移す。資金のねん出に知恵を出し合ってほしい。

ちなみに超党派議員連盟は昨年10月、内閣官房長官に対し、衛藤会長名で要望書を提出した。『本議連は「山の日」の制定を機に、山にかかわる施策がさまざまな観点から推進されることを期待し、関係行事を実行するための体制を整え、万全な体制で施行の日を迎えるよう取り組んでほしい』(要旨)。

地域振興(活性化)ではいくつかの先行例が参考になると思う。いま、「山の日」「森の日」を定めているところがざっと30府県ある。取り組みに温度差はあるが国民の祝日制定を機に、記念日なしの都道府県を含めたすべての地域で「山の日」を、地域の活性化、交流と連携、健康と生きがい創生につなげてほしい。地域の企画力、パワーが期待される。

なお「山の日」制定記念の全国集会については、ことし8月のプレ集会を大分で、祝日施行の来年は長野県の上高地で開催することが決まっている。

*本稿は月刊『地域づくり』(一般財団法人地域活性化センター発行)の8月号特集―山を生かした地域振興―より転載した。