お知らせ医療委員会

■ 2015.09.29

第35回日本登山医学会開催される

第35回日本登山医学会開催報告

第35回登山医学会会長・香川大学・臼杵尚志

本年5月23-24日、高松市サンポートホールに於いて、第35回日本登山医学会を、日本山岳会の後援を得て開催した。四国地区における初めての開催であり、総参加者数は192名であった。大会のテーマは「その向こうを見るために」である。山頂を目指す登山者の思いと研究の完遂に臨む研究者の気持ちを併せ考え、些か抽象的ではあるが、この言葉を選択した。

大会は例年のごとく会長講演からスタートした。「私が山の診療所からもらったもの」との題で、38年間携わってきた山岳診療所(三俣診療所)について話したが、その中で山岳診療所・救護所(以下、山岳診療所)を対象とした2013年・2014年のアンケート調査についても言及した。各13施設・17施設から得られた診療実績で、総受診者数1965名・2125名、重症症例搬送数17名・16名などの集計結果と現在の各山岳診療所が抱える問題点等である。

シンポジウムの主題(主題の方が良いのでは)は「登山の安全と健康保持のため、山の天候を考える」とした。山で発症する疾患や事故による外傷が天候と無関係では有り得ないこと、遭難者搬送の可否も天候に大きく左右されることからこれを選んだ。シンポジストは3名で、山岳気象予報専門の会社を経営する猪熊隆之氏からは「山の天候の特徴・山系による違い」、山荘への天気予報を配信している天気予報会社代表である越智正昭氏からは「ハレックス社における山岳気象情報提供の取り組み-これまでとこれから-」、山岳ガイドで気象予報士でもある森田秀樹氏からは「山で、雷に遭遇しないために」とそれぞれの演題で講演があり、本邦初公開であるネット配信画像供覧から観天望気まで、幅広い内容が提供された。聴衆も熱心に耳を傾け、総合討論でも細部にまで亘る議論が行われた。

特別講演では現在制作中の高山病ガイドラインについて、編集責任者である花岡正幸先生から「山岳診療の標準化を目指して-日本登山医学会高山病診療ガイドライン-」との演題で解説がなされた。山岳医療に携わる者だけでなく、多くの山岳関係者が関心を持つ同ガイドラインの主要部分について、各々の背景にある情報と文言に含めた意図の説明がなされた。将来的に作成予定の一般登山者向けガイドラインの前段階として、医療従事者向けのものが完成間近となっているが、作成委員会ではパブリックコメントの収集を予定しており、日本人に相応しいガイドラインの完成に向けて多くの登山医学者の注目を集めた。

教育講演は、論文執筆の基礎について編集委員長である奥宮清人先生から「若手研究者に向けた学術論文の書き方」という演題で行われた。学会に参加し、積極的に発表する学生や若い研究者が増えているが、学会誌への投稿に耐え得る、より高次の学術論文に仕上げる手法についての講演である。少々話し難い内容であったかと思うが、明日の本学会を担う方々の為に、色々と工夫して話して下さった。

本学術集会では、昨年秋の御嶽山噴火に関する緊急報告も取り上げた。「御嶽山噴火救助活動の聞き取り調査から」との演題で同調査を担当した大城和恵先生による報告であったが、多くの登山者が犠牲になった災害を経験し、今後このような災害に対して、医学がどう関わることができるのか、再考を促す内容であった。

本大会では、一般演題として39題の発表がなされた。8つのテーマ(生理、循環、高山病、運動器、安全・調査報告右、低体温・山岳医療、呼吸、順応)について1日目の午後、2日目の午前に分けてプログラムを組んだ。質疑応答は個々のテーマについて別会場で実施したが、討議時間帯の同会場は活況を呈し、盛んにフランクな質疑が行われていた。

学術集会の締めくくりは「再考、山岳診療所の現状と課題 -ネットワーク構築過程の中で-」と銘打っての公開討論会であった。全国の山岳診療所の内、18施設からの参加を得て、現在の問題点抽出や相互の情報交換に留まらず、明日への展望についても言及された。将来展望に関しては、それぞれの施設が多くの問題を抱えているにも関わらず、「この活動はあくまでもボランティア活動であっていいのでは」との発言があった。この言葉には更に多くの賛同が寄せられ、山岳診療を支える方々からの心強いメッセージと受け取れた。討論会の最後には、このグループでなければができない重度高山病例のデータ蓄積に関する提案もなされ、学術面での意義も確かめられた。

大会の終了後、24日午後には市民公開講座を開催した。「『世界最高齢エベレスト登頂』を支えた日本の登山医学」と銘打ち、三浦雄一郎氏御自身、登頂を支えた高山守正先生・大城和恵先生・山本正嘉先生での座談会形式としたが、会場には約250名の聴衆が集まった。3回のエベレスト登頂に関係する健康面や体力面での特徴、氏の経験や思い等が披露され、そしてそれらを科学的に考察するデータも示された。世界に誇る業績の基礎そして背景を確認しつつ、一般登山者が今後の登山に向かう際にも有益な情報提供の場になっていれば幸甚である。

公開討論の様子

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