お知らせ医療委員会

■ 2019.01.23

山本正嘉氏による登山のトレーニングの講演会を開催

山本正嘉氏による登山のトレーニングの講演会を開催

医療委員会 植木貞一郎

2018年11月26日に医療委員会は、日本山岳文化学会山岳医学医療分科会と共催し、オリンピック記念青少年センターで、山本正嘉氏(鹿屋体育大学)による講演会「登山中に身体のトラブルを起こさないためのトレーニング法 ~20歳から80歳代まで役立つ知識~」を開催した。山本氏は運動生理学者で、2016年に「登山の運動生理学とトレーニング学」を著している。参加者は105名で、会場はほぼ満席だった。山本氏は“行きたい山を行ける山”にするためにはどうしたらよいかという視点に立って、長年の研究成果をわかりやすく講演した。以下、講演の概要を記す。

健康に良い運動とは、強度が高すぎないこと、長時間行えること、運動のリズムが規則的でゆっくりしていることである。登山は適切に行えばこの3条件を満たし、有酸素運動の最高峰である。適切な強度の登山は心肺能力を改善し、脂肪を減らし、筋と骨を強くする。逆に病気や体力不足の人が強度の高すぎる運動をすると心臓を壊したり、転倒して事故につながることにもなる。運動の強さは丹沢の日帰り登山でも登りではサッカーやテニスと同等の強度で、その強度と持続時間に耐えられる準備が必要である。

2014年の長野県の遭難事故統計では登山経験10年以上の中高年登山者の事故が突出して多かった。彼らは健康状態は良好で定期的なトレーニングをしていると自己評価したが、実際に行っていたトレーニングは平地でのウォーキングや短時間の階段昇降など、強度も持続時間も不足していた。別の調査でも、山岳会のリーダーを務めるベテラン登山者の体力は同年代の一般人よりも体力は高かったが、健脚者コースで要求される体力の基準を4割が満たしていなかった。このように、多くの登山者が自分の体力を過信したり、役に立たないトレーニングに自己満足している実態が明らかになった。

さらに、年齢で体は変化するので、体力の過信は禁物である。第一線で活躍する山岳ガイドでも年齢を重ねると、体力も平衡感覚も敏捷性も著明に衰える。60歳まではトレーニングで身体能力を保つことができるが、これを過ぎると努力をしないと衰える一方である。合理的なトレーニングが必要となるが、そのために次のようなことが必要である。

1 行きたい山に見合った体力をつけるトレーニングをする

山のグレーディングを使い段階を踏んで山行のレベルアップを行うのも一法であるが、行きたい山に必要な体力と、現時点の体力をそれぞれ書き出し、ギャップを認識する。ギャップを埋めるために何をすればよいか自ら考え実行することこそがトレーニングである。

2 どのようにトレーニングすればよいか。

万人に有効な黄金律のようなトレーニングはない。各々の目標とするものも、持つ能力も異なり、ギャップも人それぞれである。自ら考え試行し検証し改善することが自立した登山者を作る。その上で根幹となるトレーニングとして次の4つを紹介する。これを基に各自が工夫をし、オリジナルのトレーニング法を作ってほしい。

1)低山トレーニングをしよう。

標高差500mの金立山を週1回水曜日に登山する会のメンバーの体力は十分で、生活習慣病や骨粗しょう症も少なかった。1か月間に上り2000m下り2000mの登降をすることにより北アルプス縦走にも耐えられる体力がつく。頻度も大切であり、60歳代は月3~4回の山行回数が必要である。コンスタントな低山トレーニングこそ理想である。

2)心肺トレーニングをしよう。

平地では、運動強度を重視して最高心拍数の70-80%が得られるような運動を、ある程度の長さ行う。ジョギングは足腰の刺激、運動強度、持続時間という点で理想に近い運動のひとつである。

3)筋力トレーニングをしよう。

安定した歩行、下りでの筋障害防止、膝痛予防には日常的な筋トレーニングが必要である。大腿四頭筋を鍛えるスクワット、腹筋を鍛える上体起こし、腸腰筋を鍛える足上げが推奨される。

4)バランストレーニングをしよう。

60歳でも、体力や筋力はトレーニングによって20歳の7割程度は保つことができる。しかしバランス感覚はトレーニングを行っても20歳の1/4に低下する。バランス、敏捷性、柔軟性を保つための「登山体操」をNHKの依頼で考案した。NHKのホームページで見ることができるので是非取り入れてほしい。週3回は行うと効果的である。

5)最後に、ネットで気軽に何でも検索できる時代となり、安易に答えだけを求める風潮が危惧される。この講演会で伝えたいことは答えではなく考え方であることを強調したい。

講演終了後も数多くの質問があり、活発な議論が行われた。

終了後のアンケート回収は88名で、結果は次のようだった。性別は男性51名、女性29名だった。年齢は30歳代5名、40歳代8名、50歳代22名、60歳代33名、70歳代17名、80歳代以上3名と、6割が60歳以上で、40歳未満は5名だった。ユースクラブの例会日に重なり若い方の参加が少なかったと思われる。

所属はJAC会員37名(42.0%), 他団体14名(15.9%),  無所属37名(42.0%)で、JAC会員の内訳は東京多摩支部18名、神奈川5名、首都圏2名、 埼玉2名などだった。会員外が半数を超え、公益に資する会だったと考える。

講習会を知ったきっかけはJACの会報17名、JACのHP16名、JACのML13名で、他にフェイスブック6名、口コミ37名、 雑誌「山と渓谷」5名, ヤマケイWeb7名、他の講演会場の配布チラシ3名だった。

評価は、「とてもよかった」65名、「良かった」23名、 普通以下は無しで、大変好評だった。感想は、身近な内容で役に立った、もっと早く聞いておきたかった、異なる視点の話を聞き新しい知識を得た、今日の講演会を感謝するなどだった。具体的な内容については、低山トレーニングと筋トレの必要性が分かった、継続することと自分の体は自分で考えて実行することの重要性がわかった、登山体操やコース定数が興味深かったなどだった。他方、トレーニング内容についてもう少し詳しく教えてほしかったという感想もあった。

登山にとってトレーニングが重要であることは理解していても実際に何をすればいいのかわからないという悩みに対して明快な指針が示された。登山者の健康と安全に資することができ、充実した講演会だった。これらの結果を今後の医療委員会の活動に生かしたい。

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