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尾瀬問題の意見書

 2011年3月11日の東日本大震災後に発生した東京電力福島第1原子力発 電所の事故が深刻な問題を生じ、東京電力が経営危機に至り、実質的に国家管理 状態になっていることは周知の通りである。東京電力は、今後、尾瀬の維持管理 のために、これまでと同じ水準を維持することは困難であることを表明している。 このような状況から、尾瀬の貴重な自然環境を後世に引き継いでいく為には、国 の責任で管理運営していくことは必要との認識から、「山岳団体自然環境連絡 会」として、
1.尾瀬の土地を国有化
2.国の主導的管理について
の2点について環境大臣あてに次の様な意見書を提出した。

平成24 年4 月2 日

環境大臣 細野 豪志 様

尾瀬国立公園の自然環境・生態系保全を継続的・安定的に行うための意見

 当連絡会は日本の代表的山岳団体(日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟、日本山岳会、東京都山岳連盟、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト、山のECHO)の自然保護部門で構成される連絡協議会です。
 東日本大震災(福島原発事故)から早一年が経過しました。昨年のマスコミの報道で、尾瀬の維持管理の難局を迎えているとことが取り上げられて以来、私ども連絡会でも議論を続けてまいりました。そのまとめの意見を以下の通り述べさせて頂くものです。
尾瀬国立公園は、湿原・池塘・沼を主体とした高層湿原で特有な生態系が営まれ、生物多様性に優れた自然環境地域として学術的にもきわめて価値の高い原生自然が残されています。尾瀬の核心部は、特別保護区並びに特別天然記念物にも指定されている山岳自然地域です。
 このように貴重な自然環境も発電所や林道建設などの開発計画が持ち上がり危機に瀕した時期もありました。しかし、優れた自然環境を後世に残していこうという先人たちの血がにじむような闘いと幅広い運動によって掛け替えのない自然環境が守られてきました。そして、わが国を代表するすぐれた自然の風景地として、多くの国民が訪れるとともに、自然とのふれあいや環境学習などの場として利用されています。
 尾瀬国立公園(福島、栃木、群馬、新潟県)の土地全体の約4 割は東京電力が所有、全長65 qの木道のうち約20 qを東京電力が管理しています。しかし、福島第一原子力発電所事故による損害賠償費用捻出のための資金調達のために、東京電力は資産売却や経費節減を迫られており、これまでと同じ水準の管理体制を維持することが困難であることを表明しています。
 国民からは、今後の尾瀬国立公園の自然環境の保全について心配する声もあげられています。特別保護区並びに特別天然記念物にも指定され、生物多様性に優れた貴重な自然環境を後世に引き継いでいくために、国の責任で管理運営していくことはどうしても必要です。
 山岳団体自然環境連絡会は、山岳自然保護の協同組織として意見を表明するものです。

山岳団体自然環境連絡会
(メンバー団体)
社団法人日本山岳協会
日本勤労者山岳連盟
公益社団法人日本山岳会
社団法人東京都山岳連盟
NPO 法人日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト
NPO 法人山のECHO

(意見)

1.尾瀬の土地を国有化
 「国立公園制定とは、国土を代表する自然環境を国民の誰もが楽しめるようにするため、山岳や海岸、湖沼、渓谷などの大規模な自然地域を対象として、国が、その自然環境を保護保全するとともに、公園として利用するにふさわしい施設(遊歩道や休憩所、あるいは宿泊施設やスポーツ施設等)を整備する地域である。」(加藤峰夫著 自然公園シリーズ3「国立公園の法と制度」古今書院)
上記からわかるように、国立公園制定の趣旨から考えれば、すべての国立公園は、本来、国有地であることが理想です。これは、広大な国有地の原生の自然を保護することから発祥したアメリカやカナダの国立公園の例を見れば明白です。
 一方、日本の国立公園制度は、対象の土地が必ずしも国有地と限らず、また、地権者を中心とした既定の利用がすでに進んでいる状態の上にあとから国立公園の網をかぶせたという事情が存在するため、地権者や利用者と一定の折り合いをつけながら、国立公園の目的にあった制限を加えるという日本独自のスタイルで発達してきました。
 尾瀬国立公園は、土地全体の約4割を東京電力が所有し、国立公園としての管理の大きな部分も東電が肩代わりしてきたという意味では、日本的国立公園の典型例であろうと思います。いま、東電は、3.11の福島第一原子力発電所の事故以来、その事故処理にかかわる経営負担は膨大で、実質的に国有化の状態に追い込まれています。わたしたちは、これを機に、尾瀬の土地を国有化して、尾瀬国立公園を名実ともに国の管理下の置くべきと考えるものです。

2.国の主導的管理について
報道によれば、自然公園法に定める「風景地保護協定制度」の適用をうけ、土地所有者以外による公園管理の肩代わりを模索しているとも聞き及びます。この肩代わり、尾瀬の貴重な自然体系を維持存続させるために現実的とは考えられません。わたしたち山岳団体自然環境連絡会としては、管理業務の実施主体としては、次のいずれかを取り入れるべきと考えます。
(1) 国(環境省)が直轄管理する。
(2) 国より尾瀬保護財団に管理を委託する。

(付言)
平成18年に制定された「尾瀬ビジョン」には、次の基本理念と基本方針が掲げられています。
尾瀬の保護と利用のあり方検討会「尾瀬ビジョン」の抜粋
(3−1)基本理念
みんなの尾瀬を みんなで守り みんなで楽しむ
わが国を代表する景観と学術的にも貴重な生態系を有し、「自然保護の原点」である尾瀬を、地域をはじめ尾瀬を愛する人みんなで保護しながら、豊な自然体験を享受できるようにする。
(3−2)基本方針(一部)
・・・
○ 国民の宝である尾瀬をみんなでサポートする仕組みをつくり、管理体制を整備する。
・・・
山岳団体自然環境連絡会は、登山者として尾瀬を利用させていただいている立場から、尾瀬ビジョンに掲げられたこの理念並びに方針に賛同し、この実現に、関係諸機関、諸団体とともに、協力を惜しむものではありません。

以上