科学委員会
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2005年
講演会「登山とサプリメントについて」
2005年(平成17) 2月17日(木)
山岳会ルーム
講師:鈴木志保子氏(神奈川県保健福祉大学助教授)
報告:山720(北野忠彦)

 講演会

「登山とサプリメント」

2005年2月17日(木)ルームにて
講師 : 鈴木志保子(神奈川県保健福祉大学助教授)

  最近、サプリメントの様々な情報が広まっているが、サプリメントの摂取が登山に際してどのような効果をもたらすのかについて、神奈川県保健福祉大学助教授・鈴木志保子氏にお話を伺った。

 サプリメントとは、「栄養補助食品」であり、食品のように摂取後消化吸収され栄養素として体内で利用されるものではない。本来は食事だけでは十分摂取することのできない栄養を、栄養素そのものとして摂取するものであり、栄養剤から補うものであった。最近は「より健康になる」ためにと摂取する傾向が大きくなってきた。しかし、食事からの栄養摂取を無視して、サプリメントをとればよいという考え方は間違いで、栄養素の過剰摂取による有害な副作用に注意が必要である。

 サプリメントは薬ではないので、医師の監督がなくとも購入・摂取することが可能であり、その選択、摂取は自己責任となる。 普段の生活では、基本的には消費するエネルギーや栄養素は食事で補うことができるが、激しい運動を行うとその分のエネルギーや栄養素すべてを食事から摂取しようとしても限度があり、その不足分についてはサプリメントを有効に利用することが必要になる。さらに、運動後の疲労回復にもサプリメントの利用は有効である。このようにサプリメントを有効に利用するためには、栄養学、食品学、さらには、運動生理学などの知識が必要となる。

 サプリメントを選ぶ際にはいろいろな栄養素が含まれているものは避け、1つの栄養素だけからできているものを選ぶこと。総合栄養剤の摂取はやめること、さらに成分のはっきりしないサプリメントは摂取しない方が賢明である。また1日単位の錠剤あるいは包装のものでなく、小さい単位で摂取することができるサプリメントを選ぶべきであり、摂取量の上限は必ず守ることが重要である。

 栄養素には相性のよいものと悪いものとがあり、一般的な食生活の中では注意を払わなくてもよいが、登山のような強度の高い運動を長時間行ったり、食欲がないときには考慮する必要がある。運動によって体内から水分が失われる。登山時の水分補給は、脱水や熱中症などの事故を起こさないためにも必要である。

 登山時おける水分摂取量が適切かどうかは登山中や登山後の尿の検察でチェックできる。登山中3時間も尿意を催さない、登山後1時間たっても尿意が起こらない、登山後の尿の色が濃く、量も少ないなどは登山全体を通して水分の摂取量が少なかったことを示す。水分補給にスポーツ飲料が用いられることが多い。スポーツ飲料の特徴として、発汗によって失われた成分を補給する、水分を吸収しやすくしていることがあげられる。水が腸からスムーズに吸収されるためには、体液よりスポーツ飲料に含まれる成分の濃度が低く、浸透性が低くなければならない。またスポーツ飲料の糖質が濃いと、濃い糖質を薄めるために体液から水が腸に移り、ますます体液の水が奪われる。市販のスポーツ飲料は水分と電解質の補給を考えて作られていることが多く、エネルギー補給のための糖質はあまり含まれていない。 

 しかし登山では、通常のスポーツとは異なり大量のスポーツドリンクを携行することは困難なので、スポーツドリンク用粉末や塩をとる必要がある。 体内でエネルギーが産出されるとき、ビタミンB群が補酵素として重要な役割をはたしている。運動で大量のエネルギーが必要なとき、糖質や脂質などだけでなくビタミンB群も十分に摂取しなければエネルギーの産出がうまくいかない。

 登山に際しては、ビタミンB 群のサプリメントが有効である。  この他、アミノ酸を成分とするサプリメントでは、必須アミノ酸、特に分岐鎖アミノ酸とよばれるバリン、ロイシン、イソロイシンの摂取効果についても触れた。

 なお、サプリメントとは直接関係ないが、登山を含むスポーツでは適切な体重の維持が必要で、朝、起床直後、排尿後の体重を毎日記録することが欠かせない、などの話があった。

               (北野忠彦)
 
山720-2005/5  


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