科学委員会
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2007年
富士山測候所の活用と今後の展開 
浅野勝巳(NPO富士山測候所を活用する会理事長)
会報「山」749(2007年10月号)

日本富士山測候所の活用と今後の展開

     浅野勝己(NPO富士山測候所を活川する会理事長)

  以前『山』で「富士山測候所のゆくえ」と題して同僚の堀井昌子理事が報告されているので、その続報として最新の情報を述べてみよう。

 気象庁は約4年にわたる跡地利用検討委員会の中間報告で、「極地高所科学研究拠点とする。ただし受け皿が未定」との結論を発表した。そこで無人化直前の3年前の8月に、約50人からなる「富士山高所科学研究会」を創設し、各省
庁を回って受け皿を探してきた。 しかし残念ながら、成果は得られなかった。 そこで05年11月、NPO法人設立総会を開き、事務手続き後、内閣府へ申請。06年4月、富士山測候所を活用する会としてNPO法人の認証を受けることが出来た。現在160人の会員で構成され、07年5月には2年目の理事会総会を開催したところである。

会長には中村徹氏(元運輸事務次官)を迎え、副理事長に三浦雄一郎氏、さらに19人の理事のなかには平山善吉氏(前日本山岳会会長)、田中文男氏(日本山岳協会会長)、今井通子氏、田部井淳子氏ら多くの山岳関係者が参加している。

 この2年間、「よみがえれ富士山測候所」をテーマに市民向けのシンポジウムを3回開催し、さらに外国研究者を迎えての国際会議を3回にわたり開催している。

 最も新しいところでは、07年7月17日、電通の支援により新橋電通ホールに約200人の聴衆を集めて「世界エコサイェンスネットワーク会議」を盛大に開催した。電通では毎年、新入社員の富士登山を実施しており、今年で80周年を迎えた経緯があり、本会議を開催する運びとなった。従って「第80回電通富士登山記念、富士山発、世界の極地高所研究所から地球の末来を見張る」がサブテーマとなった次第である。外国からは大気化学者5人と高所医学者1人の計6人が討論に参加した。高所医学のレヴイン教授(テキサス大)は米国内のパイクス峰(4300メートル)などの高所科学研究所の活動状況を紹介され、富士山頂での研究の重要性を指摘された。私は、富士山頂を@高山病予防のセンターに
したい、A高所順応の基地にしたい、B高所医学研究の拠点にしたい、という日本登山医学会での3決議を紹介した。

 一方、大気観測施設としての必要性が指摘され、地球温暖化の現状把握のためにも研究ネットワークの重要性が強調された。会議の最後に大気化学のシュネル博士(ハワイ・マウナロア研究所)が代表で「地球環境観測ネットワーク構築宣言」を提案し、参加者一同が署名、合意した。

 さて気象庁には3年前の無人化決定後も、昨年までは、7〜8月の2ヶ月間は常駐して管理を継続していたが、本年度は完全に非常駐化が実施された。そこで、昨年4月の国会での法改正により国有財産の民間への有償貸付が可能となり、5月18日に活用団体を募る公募が行なわれた。これに私たちNPOが応募し、6月14日に承認の通知を受け、6月21日に気象庁と国有財産有償貸付契約書に調印することができた。

 これにより7月10日から9月5日までの2ヵ月間、私たちNPO法人が民間団体としてわが国で初めて国有財産である富士山測候所を活用することができた。 3人の常駐者が管理に当たり、各研究者が9件の研究テーマ(高所医学4件、大気化学2件、植物生態学1件 、宇宙腺科学1件、安全システム1件)を精力的に研究・調査し、成果を挙げることができた。高所医学分野では、登山者の心機能検査、睡眠時を含む山頂滞在中の心拍、酸素飽和度の変動の連続測定など、基本的な計測から。”新発見”の続出する貴重な資料が得られつつある。

 これらの成果をもとに、山頂での高所順応後に海外の高峰登山に参加し、高所障害や2.1パーセントにおよぶ致死率の遭難を予防できるようになることが将来の夢である。      

山749(2007/10月号)   

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