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     ミニ水力発電

上高地山岳研究所における
「ミニ水力発電計画」について
「上高地山岳研究所のこと」(坂本正智)
「実験としてのミニ水力発電計画」(森武昭)
報告:山647(1999年4月号)

上高地山岳研究所における
「ミニ水力発電計画」について

ミニ水力発電計画実行委員会

上高地山岳研究所のこと

 山岳と登山に関する研究、講習、および海外の山岳団体との交流を目的として、昭和36年に当時の日本アルプス案内人組合安曇支部が使っていた建物を譲り受けたのが、現在「さんけん」と呼ばれている施設の前身である。

 木造平屋の小屋は、組合が使用する前は、警察の派出所であったようだ。バスターミナルに案内人組合の建物ができて移ってしまったために空き家となり、いろいろなところから使用申し込みもあったらしい。場所が国立公園地域内であり、特別の計らいで黙認されていたらしく、本来の目的以外での使用は認められなかったようだ。

 信濃支部の方々のご尽力もあり、「全国的な登山組織である社団法人の日本山岳会が登山技術研究所として使用するのであるのなら」 という極めて好意的な理由付けで、この土地を所有する松本営林署などが中に入ってくれて借り受けることができた (この間の事情は会報362号に日高信六郎元会長が書かれている)。

 当初は上高地山荘と呼ばれ、六畳、八畳各1と四畳半2の4つの客室に炊事場、風呂場がついて、収容人員は20名であった。平地にあった民家をそのまま移築した小屋は使い難く、老朽化も激しかったため、昭和48年に建て替えることになった。

 大石長官の率いる環境庁指導のもと、日本の自然を護ろうとの機運が全国的に起こりはしめたなか、スタートした二代目の建築は、「国立公園内に山小屋を建てることなどおいそれと許可できない。社団法人たる日本山岳会あたりは、それに最も協力してくれる立場」という関係各庁の意向も、公益法人としての立場から自然環境と山岳の研鑽、登山や環境保全に関する講習会などを実施するという当会の目的に、理解を示した新築許可であった。

 三代目の山研は平成5年春に地上二階、地下一階の建物として誕生した。地下一階は資料展示室として、山岳資料や環境保全に関する展示を中心に、4月末の開所から10月末までの期間を一般公開として、当初の意志をいかした施設となった。

 かけがえのない地球を、自然と調和しながら次の世代へと引き継ぐというメッセージを込めて、昨年夏にはCO2削減の一端として「自然エネルギー展」を科学委員会、資料委員会と共催で開催した。

 水力、太陽光、風力の自然エネルギー有効利用の特別展は、観光客、山小屋関係者など多くの来所者を迎え、またマスコミなどにも大きくとりあげられた。

 年間200万人ともいわれる観光客。それを受け入れている上高地に対して、日本山岳会が公益法人として「何ができるか」「何をしなければならないか」を考え、地元に協力しながら行動するときがきているとの認識から、山研運営委員会は行動してきた。

 同時に、会員懇親の場としての山研をアピールする企画も立て、新会員を対象とした登山と講演を青年部と共催で行っている。また、地元で生活している人たちとの懇親を目的としたミニ・コンサートを山研で開き、お互いの理解を深めることにも努力してきた。この催しは今後も継続して行われる。

 現在の山研の新築と同時進行の形で、実験のためのミニ水力発電計画があり、環境庁、中信森林管理署(旧松本営林署)などと交渉を続けてきたが、神奈川工科大学との共同研究ということで、許可申請書を提出する段階になってきた。

 山研における水力発電は、施設で使用する電気をまかなうのが目的でなく、あくまでも実験としてのものである。実験により得られるデータは会報や山岳雑誌、学会などで機会あるごとに公表し、また、発電施設は一般公開する予定である。
                                            (山研委員会担当理事・坂本正智)


実験としてのミニ水力発電計画

 鳥居亮会員らによって長い年月をかけて検討されてきた山研の水力発電計画は、やっと具体性を待ったものとなってきた。計画の目的は、
@ ミニ水力発電が環境にやさしい方式であること。
A 流量と落差が確保できるところでは非常に有効なシステムであり、
B その成果を上高地を訪れる見学者をはじめ多くの方へ訴えていくこ とである。

 したがって、そこで発電された電力の一部は生ごみ処理(約700ワットの電気を昼夜に関係なく常時使用する) などにも使用し、環境保全にも役立てるものである。

 将来的にはこの電源を用いて、山小屋などの屎尿処理のモデルケースをつくることにも挑戦してみたいと考えている。

 また、実験概要が一般の見学者にも一目で理解できるように、左図のような表示盤を、山研裏に新たに設ける発電機室内に展示したい。

 山研の裏手数百メートル上部の善六沢に、75ミリパイプ2本を入れて取水し、サージタンクに送る。取水する水量は沢の2パーセント以下(渇水期でも8パーセント以下)であり、生態系に影響はないものと思われる。取水の際に流人する土砂類は、大きなものは取水口に設けたフィルターで除去し、細かいものはタンク下部に沈殿させるようにする。
サージタンクからは75ミリパイプ1本で発電機まで送水し、オーバーフローした水は元の沢へ戻すようにする。

 こうして得られた水を、高低差にして約50メートル下にある、山研裏手に新しく作る発電機室(1.5坪)に送る。

 タンクから発電機室までは300メートル以上もあり、送水パイプが長くなってしまうために管摩擦などによる損失が生じて、発電に直接寄与する有効落差は約36.5メートルになると見込んでいる。

 流量は設計上では毎秒5リットルであり、タービンと発電機の効率を考慮すると約800ワットの発電量が得られることになる。水力発電は24時間(常時)発電するため、この発電量を天候など気象条件の影響を受ける太陽光発電設備に置き換えると、7〜8キロワットに相当する。

 水力発電装置のタービン部は、高落差小水量向きのお椀の形をしたぺルトン水車(写真参照)を用いる。
そして水が勢いよくあたる回転部分は、外部からもよく見えるように外枠を透明のプラスチックで特別に加工している。

 発電機部分は、小容量のために三相交流発電機を用いるが、電圧制御を容易にするため出力は直流24ボルトに変換している。最大出力は前述のように800ワットを見込んでいるが、将来のことを考慮して、設備としては1キロワットで設計されている。直流出力は、負荷の変動を吸収するためバッテリーをフロート状態で使用する。

 生ごみ処理のような常時一定の負荷に対しては、バッテリーは最低限の容量でよいが、非常時(商用電源が停電したときなど)を考慮して必要に応じて照明や他の電気機器の電源として使えるように、120アンペア(トラックに搭載されているバッテリー)4台を用意する。

 発電に使用した水はまったく汚染されていないので、いったん受水タンクに入れた後、一部は山研の飲料などの生活用水として使用し、残りの水は75ミリパイプで梓川まで導水する。

 したがって善六沢で取水したわずか毎秒5リットルの水は、発電に使用したのちに一部を飲料水として使用(現在も発電計画と同じルートを生活用水のパイプが通っている)するほかは、汚染のない水をすべて梓川に戻すため、環境面から見ても優しいシステムになっている。

 このミニ水力発電計画は、今年度の山研開所(4月28日)から工事に着手できるよう、現在環境庁などに申請中であるが、許可のあかつきには、工事にあたっては上高地の自然を損なうことのないように留意するとともに、できるだけ会員のボランティアで、自らの手で作り上げることにより、本計画の主旨がより生かされるようにしたい。

 (科学委員会担当理事・森 武昭)

山(647)1999/4月号


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