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分水嶺 雑学

1、分水嶺とは

分水界、分水線、分水境界などという。雨水が異なる方向に流れる境界のことであり、水系と水系の境界を指す。(水系とは集水域に流れる川の系統をいう)
至る所に分水界は存在するが、特に山岳地帯では山稜が境界になるので分水嶺という。

2、分類
次のように定義した(分水嶺倶楽部・近藤善則)

 ■大分水嶺(だいぶんすいれい)Greate Divide・・・異なる海域に注がれる水系の境界

 ■中分水嶺(ちゅうぶんすいれい)Middle Divide・・・同じ海域に注がれる異なる水系の境界。

   例)北、中、南の日本アルプスはいづれも中分水嶺に属する。

 ■小分水嶺(しょうぶんすいれい)Sub Divide・・・同じ河川の支流、枝沢の境界(副分水界という)

  例)槍ヶ岳、東鎌尾根は代表的な小分水嶺で、梓川と高瀬川が安曇野で犀川となる

 ■中央分水嶺(ちゅうおうぶんすいれい)Central Divide・・・日本列島の場合は主に太平洋側と日本海側に分ける大分水嶺(界)の連続線をいう
この場合オホーツク海は太平洋、東シナ海は日本海、瀬戸内海は太平洋に含め、宗谷岬から佐多岬までの一本の線を指す。

 ■大陸分水嶺(たいりくぶんすいれい)Continental Divide・・・アメリカ大陸のように南北に太平洋と大西洋に分ける分水嶺を指し、異なる洋(Ocean)で区分する

 ■内陸環状分水嶺(ないりくかんじょうぶんすいれい)Landlocked Circle Divide・・・大陸などの内部では海洋に流れ込まない河川が存在する。流れる先は大きな盆地を形成するか、内陸湖になる。この内陸側と海洋に注がれる河川の分水界を辿っていくと環状につながる。アジア大陸の内部には最大の環状分水嶺がみられるが、アフリカ大陸や北米大陸などにも存在する。  →アジア内陸環状分水嶺

学術的には、主分水界(大分水嶺、中分水嶺)、副分水界(小分水嶺)としている

分水の形として次のようなものがある(堀淳一)

■谷中分水・・・ひとつづきの平坦な谷の中にある分水界

■水中分水・・・ひとつの沢や川が異なる河川にわかれるところ。

■平行流間分水界・・異なる川が同じ方向に隣り合って平行に流れている間。

3、分水界の相違

大分水嶺の特定には次のようにいくつかの相違が見られる

現在得られる資料は、次の3点が主であり、これによる相違を次に示す

□National Atras of Japan(日本国勢地図帳)のRiver System(水系図)による。(以下「アトラス」と称す)

□全国分水嶺市町村協議会(分水嶺サミット)選定による中央分水嶺(界)(以下「サミット」と称す)

□日本河川水質年鑑(建設省河川局)による水系区分(大分水嶺の特定はない)

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−1 北海道

北海道は、日本海、オホーツク海、太平洋の3つの海域の区分から、宗谷岬(日本海/オホーツク海)、知床岬(オホーツク海/太平洋)、松前半島の白神岬(太平洋/日本海)から、それぞれ中央部・大雪山系の三国岳へ至る境界を結ぶ線で一致している。
国土地理院のアトラスでは、三国岳から襟裳岬に至る、日高山脈を大分水界としている(後述) 学術的な定義がなされていないので、背稜山脈で線引きされているようだ。
また、中央分水嶺(界)としては、オホーツク海を太平洋側に含め、宗谷岬からの線がふさわしい。

−2 本州東北部

東北、中部にかけては日本海と太平洋を中央背稜山脈で線引できるきる。北端は津軽半島の竜飛岬(アトラス案)、と下北半島の大間岬案(サミット案)、で異なる。津軽海峡が日本海に属するのか太平洋に属するのかで特定されると思う。私としては下北半島(サミット案)をとりたいところだが、海上保安庁の海区では、津軽海峡は日本海、太平洋のいづれでもないとのことで、もし水位がさがったらどちらが先に陸続きになるかで決めると、竜飛岬に軍配があがる。

−3 本州西部

近畿から中国にかけては日本海と太平洋の間に瀬戸内海が存在し、これによる分岐が伊吹山地の北、三国ヶ岳から中国山地背稜を下関・壇ノ浦に至る線と、伊吹山地を南下し和歌山の北側に至る線に分つ。(サミット案では特定してないが、これには紀の川の北を通るか南を通るかで意見が分かれるところである)

鳴門の渦潮が瀬戸内海と太平洋の海流の混ざり合う現象からできるとすると、紀ノ川の北側- 淡路島となるが、海区区分では、瀬戸内海と太平洋の境は日の崎−蒲生田岬を結ぶラインとなっている。四国への繋がりを考えるとこちらの方がよさそうである。

−4 四国

四国は瀬戸内海と太平洋の区分になるが、ここには疑問が2つある。

東端は(サミット案)(アトラス案)共に吉野川の北側、鳴門から始まっているが、前項の海区を考えると、吉野側の南側となる。地形的には、中央構造線が吉野川にそって走り、北側が讃岐山地、南側が四国山地を形成しているので、どちらとも言えないが、水を分つ山稜として四国山地の方が標高や地理学的にふさわしいように思えるし、日本列島を鳥瞰すると、紀伊水道をはさんですんなり線が引ける。

西端は石鎚山から南下して足摺岬へ至る線(アトラス案)と石鎚山から西の佐田岬半島に至る(サミット案)線に意見が分かれる。こちらは佐田岬案が順当であろう。

−5 九州

九州は4つの海域が関係し、日本海と瀬戸内海の分岐、門司付近から始まり、南へ大隈半島の佐多岬へ至る線に加えて、日本海と東シナ海の区分が英彦山から西へ平戸に至る線となり、瀬戸内海と太平洋の区分が阿蘇の東、祖母山付近から東に佐賀関へ至る線として存在する。サミット案では佐賀関へ至る線は特定していない。

中央分水嶺(界)としては、東シナ海を日本海に含め、佐多岬に至り、さらにサミット案では沖縄にも中央分水界として、明記されている

4 ,National Atras of Japan(日本国勢地図帳)への疑問(2001/7/1追記)

さて、その日本国勢地図帳であるが、水系のページは、ほとんどの日本の河川が記載されている一枚の地図であるが、凡例には大分水界と分水界がはっきり異なった太さの線で区分けされていて、北海道の、日高山脈を襟裳岬に走る個所も大分水嶺となっている。

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なぜだろうか?同じ太平洋に注ぐ水系の境界が大分水嶺だとすると、先の定義がくずれてしまう。この疑問を解明するために国土地理院のホームページ上のメールで質問をしてみた。

数日して回答が得られたが次のように記されてあった。

調査に時間がかかり、遅くなってしまいました。
高橋裕著 東京大学出版会発行「河川工学」に記載されています。

というものであった。さっそく図書館で同書のページをめくってみたが、定義や違いについてはどこにも記載されていない。しかも国勢地図帳の水系図と全く同じような地図が掲載されており、地図の原典は(高橋、坂口;1976:日本の川「科学46」(岩波))とある。

身近なところに「科学」が置いてある図書館がないので、ついに国会図書館で、バックナンバーを調べる羽目になってしまい、漸く見つけ出したが、やはり定義などは述べられていない。

こうなったら、直接著者に尋ねるしかないと思い、「河川工学」に記載されている住所に思いきって質問の手紙を差し上げてしまった。

数日して、高橋先生からつぎのような返事をいただいた。

ご指摘の”日本の河川分布”図における大分水界と分水界については、原典の共著者である地理学者の坂口豊と電話でご意見を伺いながら下記のように合意しましたので、お答えします

国土地理院”日本国勢地図帳は1973年、坂口.高橋”日本の川”科学は1976年で、原則として、われわれの図は国土地理院を参考にしましたので、その原典すなわち国土地理院を参考にしたと記すべきでした。したがって国土地理院にメールでお尋ねした際のお答えが拙著を参考にしたというより、国土地理院、日本国勢地図帳とされる方が正確と思います。

北海道の日高山脈、四国は讃岐山脈、石鎚山脈をなどを大分水界としたのは、各々背稜山脈に基いたので、ここでは”異なる海域に注ぐ水系”ではなく、原則として背骨となる山脈を大分水界としたためです。国土地理院もその点では若干定義が少々重なって海域と背稜山脈を併用したものと思われます。もし海域を重視するのであれば、日高山脈や讃岐山脈、石鎚山脈ではなく、御説のように渡島半島、吉野川の南が大分水界ということになるでしょう。

というものであった。結局学術上の定義は存在しておらず、日本列島の骨格をなす山脈を大分水界としたようで、私の定義もある意味では正しいと言えることがわかった。

近藤善則


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