科学委員会
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1979年
◆第三回講演会「高山植物―その特徴と背景」
1979年(昭和54) 6月29日  
小野幹雄(都立大)
参加者:   報告:山413-1979/11

小野幹雄氏を迎えて
−−−科学研究委員会     
               第三回講演会−−−


 6月29日(金)午後6時から都立大学理学部牧野標本館の小野幹雄助教授を迎え、高山植物に関する講演会を開いた。 このことについて開催通知の印刷されている会報6月号が当日までに配達されなかったため、急遽数十名に電話連絡を行ったりしたが、大部分の会員には結局お知らせできなかったことを先ずお詫び申し上げたい。

 本講演会は当委員会は8月に行う鳥海山高山植物探素行の啓蒙をも目的としたものであるが、当日は山形支部長村上氏はじめ鳥海山行参加者も出席し、人数は少なかったが充実した講演会となった。先ず高山植物とは何かという定義から始まって、系統的明快な説明と美しいスライドの映写がなされた。質問も次々に出て予定時間を遥かに過ぎる盛会であった。

 「高山植物」
 ―その特徹と背景―要旨

 本州中部の高山を考える場合、南側の太平洋岸低地ではシイ、クス等のいわゆる照葉樹林がひろがるが、少し高度を上げると紅葉落葉樹林帯となり、800米あたりを境として下はクリ、コナラ、クヌギ等のクリ帯、上はブナやミズナラのブナ帯となる。 2000米近くまで登ると針葉樹林帯がひろがりシラビソやコメツガ等が茂る。この地帯は亜高山帯ともいわれる。標高が更に高くなると針葉樹も背丈が低くなり、ついには樹木がみられなくなる。そこを森祚限界といい、この上を高山帯という。ヒマラヤやアルプスではその上にスノーラインが存在しこれより上では地衣類位しか見られないが、日本にスノーラインはみられない。 勿論照葉樹林帯にクロマツが生え、クリ帯にアカマツ、プナ帯にモミ、針葉樹林帯にダケカンバ、高山帯にハイマツやキバナシクナゲなどが生えていて、右の区別は厳罰ではないが、原則として高山帯に木らしい木はなく、生えているのはせいぜい高さ20種前後の小低木だけである。 高山植物とは、この高山帯を主な生活の場としている植物のことをいう。 ハイマツは高山帯にしかないので高山植物にはいる。 裏日本では亜高山針葉樹林帯の発達が悪く、山頂付近までブナ帯となっている。鳥海山にも針葉樹林帯はないが北に位するため森林限界は1500米位であって、標高は低いけれども高山植物が多い。

 高山植物は分類学上の区分ではないので様々な植物が含まれるが、それにも拘らず共通の特徴をもっている。それは厳しい風雪に耐え、雪のない短い期間に成長し、花を開き実を結ばねばならないからである。高山植物の特徴は 
@背丈が低く、その割に根などの発達が良い。 
A成長が極めて遅く、何年もかかってやっと数糎しか伸びない。一年草のものは殆どない。
B葉が小さく硬く、ぎっしり詰まっている。その上、まきこんだり、毛に覆われていたりして葉面からの水分の蒸発を防いでいる。 
C花は低山のものと変わらぬ大きさなので、植物体に比べ花が大きく目立つ。

 高山植物を生育環境によってわけると次の三種類になる。 
@高山礫地・・高山帯の尾根筋や崖など、風が強く乾燥の激しいガレ地にみられる種類で、最も小さく、乾燥の激しいガレ地にみられる種類で、最も小さく、乾燥お花畠を作り、栄養は空中から摂るものが多い。(イワギキヨウ、ミヤマウスユキソウ、シコタンソウ) 
A高山草原・・雪渓の縁や、やや湿った草地に生える種類で、かなりの面積に亘つて湿性お花畠を作る。(アオノツガザクラ、ウサギギク) 
B高茎高原・・森林限界付近の雪融け水の豊富な土壌の積ったゆるい斜面にできる草原で、高山草原のものと重複することもあるが、大形化し立派な形をとっている。(トリカブト・クルマユリ)

山413 (1979/11月号)


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