ここでいう高齢者とは60歳以上のことで、定年延長の風潮もあるが、登山を続けることによって社会的活動が可能になれば大いに意義があると考えられる。80歳以上でも充分留意して山に登るならば、その判断力、洞察力は充分社会的に活かすことができるものと思われる。
高齢になると共に確かに無理は効かなくなり、回復が遅い。私自身の今年の例を挙げると、夏汗をかいて塩分を失い、そのような状況がフォストビパークなどで二日続いたため、塩分欠乏症となり、一時的に指か利かなくなった。逆に腕の開放骨折をした際、感染防止のための抗生物質投与のため週余にわたり大量に生理的食塩水を点滴され、塩分過多となり、血圧が上昇し、足がむくんだことがある。前の場合には中華そばの汁、ついで醤油水をのむことにより、後の場合は注射を中止することで直ちに回復したが、このような状況にならないよう気をつける必要がある。
さて登山やジョギングは比較的強い労働に属し、ゴルフや散歩などより重い。このため酸素の摂取量が増加し、心拍数が増加するが、高齢となるに従い、その増加する能力の低下がある。
また運動をやめて休んだ場合に回復が遅れる。
このため高齢者は長時間登り続けないこと。更に休憩を長めにとり、中々回復しない場合には予定のコースを歩かず途中で1泊するか、あるいは下山するか等の処置をとる必要もあろう。
その目安として心拍数を自分で測ることをおすすめしたい。心臓か過労になってバッタリ倒れる直前の心拍数をその人の最大心拍数と呼びHRで表わす。その値はおよそ
HR=220−年齢…………………(1)
で与えられる。今その人の安静時の心拍数をHR0とすれば、登山その他トレーニングの場合適当とされる心拍数HR’は次の式で計算できる。
HR’=HR0+(HR−HR0)×0.6………(2)
たとえば70歳で HR0=70 の人は
HR’=70+(150−70)×0.6=118………(3)
60歳で HR0=70の人は
HR’=70+(160−70)×0.6=124
私の場合、70歳で120くらい(10秒で20)がいいところで、150(10秒で25)ともなると呼吸困難となり、休まざるを得ない。
ただしこの値はトレーニングによって充分安全に上げることが可能であって、私自身50年のブランクの後、毎週山に出かけるようになってからは HR−HR0 の係数を0.6から0.7くらいに上げることが可能となった。また登山中、たとえば歩き出して5分経過したところ、HR’を越える値になったとすれば、その場で一旦休むべきで、15分歩く予定だったからといって強行すベきでない。休憩時間3分から5分くらいで通常はもとに戻るが、中々戻らない場合には更に休憩時間を延長すべきである。
また一旦係数が0.7に上がった人でも暫く山から遠ざかっている場合には0.6以下に下がるものと考えてよい。この値を保つにはやはり平素ジョギングなど行うことが必要で、できれば週2回くらい断続でよいからジョギングを数十分続けることが望ましい。なお係数が0.3以下の場合にはその人にとって運動した効果がないことになるので、散歩程度でなく速歩で歩き、あるいは階段の登行を加えたり、またはジョギングで汗ばむくらいに心掛けるべきだ。
以上は循環系を中心としたお話しをしたが、高齢となって肝要なことは神経性調節機能の低下、特にバランスか悪くなることである。殊に疲労後、また下山時に起こり易いので、慎重にしたい。
また少量のビールを飲むことや少しの障害があることは問題ないが、山での暴飲や、熱性疾患、あるいは心臓障害を犯しての登山は控えた方がよい。
出席者 佐々保雄、野口末延、鶴岡元之助、望月達夫 他27名