今年度の科学研究委の探索山行では直下型地震にも関係のある断層地形をテーマに取り上げることになり、 10月16、17の両日、関西支部の協力を得て比良山に出かけることになった。
本講演はその予備知識ないし興味を深めることを目指して開かれたものである。
出席者(順不同) 遠藤光男、麦倉啓、中島学、高田真哉、菅野弘章、川澄隆明、浅野孝一、清水長直、柳田誠、中村あや、高橋詢、千葉重美、神谷光昭、小野有五、斉藤かつら、梅野淑子、小西奎二、前田文彦、中村純二
(中村純二)
講演要旨
山はなぜ高くなったのかという問いは、地球科学の根本的な問題の一つである。
最近の地球科学では、地球の表面をとりまいている岩石の層(地殻)が、大きな割れ目にそって何枚かのプレートに分かれていると考えられるようになった。プレートというのは薄い板のことである。ちょうどパズルのように、地球表面の地殻は何枚かの板が組合わさってできているわけである。この考え方にたつと、日本列島は世界最大の太平洋プレートの西のはじめにあって、このプレートが西に少しずつ移動しながらアジア大陸のプレートにぶつかりそして日本海溝のところで沈みこんでいく場所に位置している。隣りあうプレート同士がぶっかりあうところでは地殻に沢山の割れ日や断層がつくられるので、そこでは火山活動が活発で地震も多い。日本列島の山々は、まさにそうした地殻変動の激しいところ(変動帯)にそぴえているのである。
断層のあるところでは、それを境にして両側の大地が違った方向に動いている。これが断層の運動である。断層を境にして土地が上昇(隆起)したところが高い山になるわけで、こうしてできた山地を断層山地という。日本の高い山岳は、火山を除けばみな断層山地であるといっても過言ではない。
日本の高山の大部分は日本アルプスに集中している。そして日本アルプスをつくる飛騨、木曾、赤石の山脈は、フォッサ・マグナと中央構造線という、日本列島を東西・南北に分ける二つの大所層に沿ってそびえているのである。 フオッサ・マグナというのは大地溝という意味で、大糸線、中央本線に沿って連なる北城盆地、松本盆地、諏訪盆地、甲府盆地などの盆地群は、この大断層によって地盤が陥没した部分に相当している。反対にフォッサ・マグナの断層によって陸起したのが飛騨山脈と赤石山脈で、断層に接する常念山脈や後立山連峰は、これらの盆地の西側に、断層によってできた急な崖(断層崖)を屏風のようにそびえ立たせているのである。断層崖の高さが最も大きくなるのは甲斐駒ケ岳のあたりで、黒戸尾根の登高が辛いのももっともなことと言わなければならない。
フオッサ・マグナの西側や木曽山脈の周辺では、山地の地盤がまわりの谷や盆地をつくる地盤の上にのし上がるような運動をしていることか多い。 こうした断層は逆断層と呼ばれる。
断層にはこのほか、正断層や地ズレ断層がある。
正断層というのは、山が高くなる時に、低い方の地盤がずり落ちるような運動をする断層であり、横ズレ断層というのは、断層に沿って両側の地盤か水平的にずれて食い違う断層である。
飛騨山脈は、フォッサーマグナ、跡津川断層、阿寺断層などに囲まれているが、後の二つは日本でも有数の横ズレ断層として知られている。
日本列島の山々はたかだか3千メートルの高さしかないが、いま太平洋の水を消し去って考えてみると、日本の山岳は深さ6千メートルくらいの太平洋の底から、9千メートルの高さにそびえていることになる。否、深さ1万メートルを越える日本海溝の底に立ってみれば、それはヒマラヤをしのぐ世界第一級の大山脈であると言えよう。
日本アルプスやヒマラヤ山脈が一体いつから現在のように高くなったかについては、実はまだよくわかっていない。 ヒマラヤもまた、アジアのプレートとインドのプレートとの境界にできた山脈であり、そこにはいくつもの大きな断層が知られている。断層と山との関わりを調べていくと、日本アルプスはヒマラヤにつながりそして世界の山々の生い立ちにつながっていくのを感じることができる。
山450 (1982/12月号)