科学委員会
KAGAKU            

 

1983年      
◆講演会「山地の気候」
1983年(昭和58) 4月8日
山岳会ルーム     
R・E・Barry(国際山岳学協会事務局長・コロラド大環境協同研究所)
通訳:吉野正敏(筑波大)
参加者:16名  報告:山466-1984/4(吉野正敏)

−報告−
         科学研究委員会第17回講演会

 山地の気候

       講師:RE・バリー教授(コロラド大)
         通訳:吉野正敏(筑波大)

    まえがき
 1983年4月8日18時30分〜20時30分、日本山岳会ルームにおいて国際山岳学協会(International Mountain Society)の事務局長でもあり、最近、“山岳の天気と気候”という著書を刊行した気候学者でもあるコロラド大学環境研究協同研究所のバリー教授の講演がおこなわれた。

1、山地の気温
 山地の気温日変化は、赤道地方の山では大きくほぼ10度Cくらいである。高緯度にゆくほど小さくなり極に近くなるとほとんどなくなる。逆に季節変化は低緯度で小、高緯度で大となる。コロラドのナイウォット山(3744メートる)で長年観測しているが、冬にはアラスカのバローと同じくらい、夏でも樹木限界より北のフェアバンクスと同じくらいである。

 ニューギニアのウイルヘルム山の東向斜面と西向斜面の気温日変化を、日射の影響を入れて計算機で書かせた図は非常に興味があった。また早朝から日射で暖められる斜面では、10時ころすでに上昇気流による雲が生じる。ニューギニアの山地の美しいスライドで説明があった。

2、山地の風
 山地の風は偏形樹を指標として知ることかできる。例えば、トウヒやトドマツなどの樹型から、樹木限界付近の積雪の状態、地ふぶきの方同、卓越風向、その風の強さなどが推定できる。尾根の風下側にはよく知られているように雪が堆積し、これがカールにまで発達する。

 また少し大きいスケールでみると尾根の風下にはいわゆる風下波動(山岳波)ができる。ロッキー山脈の東側山ろくにシヌックが吹くとき、風下波動ができ、地上ではホールダー付近に強風か吹く。1979年1月、1983年1月などには瞬間最大風速65メートル/毎秒の強い風が吹いた。

3、山地の降水量
 熱帯山地では降水量の極大は海抜約700メートル、温帯山地では約1500メートルの高度に現われる。ひとつの高山の斜面では風上斜面の中腹に極大がでるが、これは上昇気流の極大になるところである。一方、下降気流の極大は風下斜面で頂上のすぐ下部に現われるので、降水量の極小の高度はかなり斜面の上部に現われる。現実の山の断面の形は複雑なので、個々の山でかなりの差かある。したがって、風上斜面における降水量と高度との関係は簡単な式では表わせない。

 山地の降水量には観測法の問題もあり、風よけをつけるなどしている。大きな金網の小屋のような風よけをロッキー山脈の観測地点では使用している。これが最良とのことであった。

 冬、低地や谷間には層雲が、山ろく部にでき、逆転層によって拡がる。高いところからこれをみるとき、雲海と呼ぶ。雲海の上限(表面)高度は季節によって異なる。

4、山地の大気汚染
 谷間には夜間、逆転層が発達することが多いので、付近に工業地域があると、この層内に汚染大気がよどむ。スキーなどの観光に大きな問題となる。日中になると谷風が発達し、この汚染大気が山頂部に運ばれる。例えば、北米の西海岸のレイニア山の頂上近くですら、シアトルやボートランドからの汚染物質か検出される。また、最近は酸性雨が問題となりつつある。

 あとがき
 以上を、さらに詳しく知りたい方は、R.G.Barry:Mountain Weather and Climate.Methuen、1981を参照されたい。

出席者 ロジャー・G・バリー、大井正一、吉野正敏、小野有五、中村純二、高橋詢、田村俊介、原芳生、山下孔二、小西圭二、岩田修二、中村あや、千葉重美、田上善夫。山川修治、ハロルド・ソロモン

                  (吉野正敏)
山 466(1984/4月号)


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