安田武氏 松永氏らの疑問に対し、コメントを行いたい。確に透湿現象は透湿性膜の内外の水蒸気分圧の差に比例して起るもので、この点ゴアテックスの第1世代でも第2世代でも、その例外ではない。問題の水蒸気分圧は気温と相対温度によって決まる。その結果、例えば外気温5℃、湿度H100%のとき水蒸気分圧Pは6.5TORR、これに対し衣内温度20℃で、H75%ならば、内側のPは13だから、汗は雨具の内から外に放出される。しかし外気が14で、H100%すなわちPが12であるとき、衣内が20.4で、63.6%すなわちP11.4ならば、外部から内部に向って透湿が起り、透湿性があるため、余計にムレることになる。
この意味では一般に外気温が高いとき、透湿性は低下する。一方零下になると、加工布の内面が氷結したり、ゴワゴワになったりする、これらの性質はユーザー例でも心得て利用した方がよい。
西川濱氏 我社ではポリウレタンポリマー膜中に親水基を導入することにより防水性、溌水性を備えた無孔質材料であるにもかかわらず、水蒸気や空気など気体分子は透すという透湿性のある薄膜を開発した。雨衣用として、厚さ15ミクロンのこの薄膜にタフタなどを圧覚ラミネートした加工布を作った。今回はこの加工布の他、他社製品やゴム系加工品も採り上げ、18名の成年男子モニターに実際、各シーズン、各高度の登山に使用して貰った。以下これら48例の使用結果に対し、重回帰分析を適用した報告を行う。
碓率的な取扱いによるものなので、綜合評価に対する決定係数R2が0.8以上の相関をもっとき、ほぽ信頼できると受け止めて頂きたい。たとえば雨具を使用した際のデメリットとしてR2の高い順から並べると次の結果が得られた。
@透湿性雨具を用いても、実際にムレ感がなくなるわけではない。
A雨具は一般に重く、山行では問題である。
B接着部がゴエアゴワし、快適性に劣る。C保温力は必ずしも認められない。
これらは雨具用布に課せられた今後の課題と考えられる。また下着としてコットンは快適であるが、濡れてくるとウールの方が遥かに快適との結果も得られた。
安田武氏 雨具として備えるべき第一条件は凍死を防ぐことだと考えられるが、これには下着も大いに関係する。
1923年1月、立山松尾峠で起った有名な冬山遭難において、槙、三田両氏はシャツ、ズボン下共にウールであったため生還できたが、板倉氏は両者共メリヤス製であったため凍死に至った。1959年10月、穂高滝谷B沢で吹雪に見舞われた東大隊と西朋登高会隊は同じ岩穴にビバークを強いられた。東大生3名は木綿のシャツを脱ぎ、毛のセーターをぢかに着たため、上半身は暖かくなったが、下半身は木綿のズボン下だったので、一晩中ひざのふるえが止まらなかった。それでも全員生還できた。西朋の2名は上下共木綿の下着を着けたまま、持ち物余部を上から被った。このため夜中に2名共絶命した。南アルプスでも同様な凍死事故が起っている =続く=
(中村純二)
山536-1990/2