1、太平洋高気圧と猛暑
猛暑の夏は、太平洋高気圧が図1のように日本付近に強く張り出す。
一方、冷夏では図2のように日本付近への張り出しが弱い。上空5キロ付近の天気図でも、暑夏は亜熱帯高気圧が日本付近を覆っているが(図3)、冷夏では南に後退している(図4)。さらに、上空一六キロ付近の100ヘクトパスカルの天気図では、ヒマラヤ上空で発達するチベット高気圧が、猛暑の夏は日本付近まで張り出してくるが、冷夏では張り出しが弱い。図に示した1994年の夏は、地上から上空までしっかりした三つの高気圧に覆われていたため猛暑となった。
2、偏西風の影響
偏西風(ジェット気流)の流れも夏の天候を左右する。ジェット気流は寒気と暖気の境界にある強風帯である。
猛暑だった94年7月(図3)にはジェット気流が東北北部にあったが、大冷夏の93年(図4)は東日本から西日本まで南下していた。とくに、93年は偏西風が大きく蛇行し、オホーツク海高気圧が居座り(ブロッキング高気圧)、低気圧をブロックする現象が一か月以上続いた。
オホーツク海高気圧が持続すると、北日本から東日本の太平洋側に冷たい北東風(やませ)を吹かせ、大冷害を引き起こす。
3、エルニーニョとラニーニヤ
太平洋の海面水温の状況も、夏の天候を決める重要な要因である。赤道太平洋の東部で高く、西部で低い
エルニーニョ現象が発生すると、太平洋高気圧の位置が日本から遠ざかり、冷夏になる。反対に、東部で低く、西部で高いラニーニャになると、太平洋高気圧は日本付近を覆い、暑夏になる。
4、噴火と冷夏
火山噴火が夏の天候に影響を与えることもある。亜硫酸ガスを噴出させ、噴煙が成層圏まで達する大規模な噴火が起こると、その後数年間は成層圏に亜硫酸ガスからできた硫酸の微粒子が漂い、太陽光線を遮るため、地球全体の気温が下がる。93年はエルニーニョが発生した上、ピナツボ火山噴火の影響も加わり、大冷夏となった。
5、極渦の大崩壊と冷夏
さらに、北極付近の低気圧が5月に大きく崩れる極渦の大崩壊が起こると、冷夏になることが多い。極渦が崩れると寒気が中緯度に南下し、北極点付近に高気圧ができる。93年の5月は北極付近の高度が観測史上最も高く、極渦の大崩壊が起こっていた。
また、桜が早く開花した年は冷夏、あるいは猛暑といった極端な天候に偏る傾向がある。春から高温が続いた場合、エルニーニョが発生すると冷夏になるが、発生しない年は高温が続き暑い夏になる。
6、さて、今年の夏は?
さて、今夏はどのような天候になるのだろうか。今春は記録的な高温だった上、エルニーニョ、5月の極渦の大崩壊が発生するなど、冷夏の要因がいくつかあげられる。5月の赤道太平洋の海面水温は西部で平年より0.3度高く、6月上旬でも高水温が続いている。西部の水温低下が遅れているため、エルニーニョが発達して形を整えるにはまだ時間がかかり、今夏には間に合わない可能性が高くなってきた。
また、偏西風の流れもオホーツク海高気圧が持続するパターンは現れないようだ。六月下旬の時点では、今夏は暑い時期もあるが、不安定な天候もあり、盛夏と冷夏が交互にやってくることも考えられる。とすれば、天気予報で前線や寒気が南下すると予想している時期の登山は避け、暑くなると予想する時期を狙って山行を計画するのがよいだろう。
7、冷夏の年の狙い所の山は?
なお、冷夏の年でも高山は安定した天候に恵まれることもある。例えば、1991年8月は、地上付近の高気圧が北に偏り、東日本の太平洋側は涼しく雲が多かった。
その一方で、上空の高気圧は強く、富士山の最高気温は15〜16度Cと例年より5〜6度Cも高かった。
下層が低温でヒ圈が高温となったため、大気の成層は安定し、午後も俄雨や雷雨の心配がない、絶好の夏山登山日和が二週間ほど続いた。冷夏の年は、富士山の気温に注目するとよい。
また、冷夏ではオホーツク海高気圧が現れることが多いが、そのような年は、日本海側では北東風が山を越えて下降流となるため天気がよい。
秋田や山形、越後、北陸などの山では好天に恵まれる。
気象学を味方にすれば、冷夏でもがっかりすることはないということがお分かりいただけると思う。
*6月12日実施、出席者16名
(清水輝和子)
山629-1997/10