以下大井氏のお話の要点を、頂いた原稿に基づき記しますが、今回は教科書中の図(エマグラム)の説明が中心であったので、講座に出席しておられなかった方には分りにくい点があることを御容赦下さい。
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雲の見方(4) 下層雲は水滴より成り、層積雲Sc、層雲St、乱層雲Ns、の三種。層積雲Sc(かさばりぐも)は3種、7変種、3補助雲、より成つている。Scは積雲対流が不充分で、雲が積雲を作るまでに到らず、水平方向に拡がった状態を示す術語であって、殆ど毎日見られる。ロール状、うね状の蔭を示す部分があり、冬は全天を蔽うことがある。
エマグラムと温位 前回学んだように、乾燥空気(水蒸気を含んでいても不飽和ならば近似的に乾燥空気として扱える)の気塊は100メートル上昇するごとに断熱膨張により温度が1度下がる(乾燥断熱減率γd)。一方湿潤空気(水蒸気飽和の空気)では湿潤断熱減率γωが定義される。γωは水蒸気が凝結する時の熱の放出があるのでりγdより小さく100メートル当り0.3〜0.5度である。さて空気の高度と温度との関係を示すためにエマグラムと呼ばれるグラフか用いられている。エマグラムは縦軸に高さ、横軸に気温が目盛ってある。
乾燥断熱線(以下γd線と略称、赤色線で示す)、湿潤断熱線(以下γω線と略称、緑色線)が引かれている。さらに等飽和混合比線(以下Xo線と略称、茶色線)も引かれている。飽和混合比Xoとは湿潤空気1kg中に含まれる水蒸気のg数として定義されている。今一例として気圧910mb、7℃、相対湿度50%の気塊(熱気泡、パーセル)があったとする。A点を通るXo線は7g/Kgのところであるが、相対湿度50%とすると、その気塊の混合比xは3.5g/kgとなる。910mbの飽和混合比3.5の点をB点とする。B点が露点Tdで、910mbではマイナス3度である。またA点を通るγd線が千mbの等圧線(横軸に平行)と交わる点を温位θという。今の例での温位θは絶対温度で288度(15℃)である。上昇する気塊のθは一定である。すなわち一つのγd線上を変化する。
またA点を通るりγd線がB点を通るγω線と交わるD点は、A点にあった空気が上昇し断熱膨張により温度が下がり、水蒸気が飽和して雲をつくる点て、凝結高度(または雲底高度)という。気塊はD点より上では雲をつくりながら、今度はγω線に沿って上昇する。なお湿澗断熱線が千mb等圧線と交わる点は偽湿球温位という。
乾燥大気の安定度 毎日測候所でラジオゾンデによって観測される各高度における気圧、気温、露点温度をエマグラム上に記入したものを、その時刻の大気の状態曲線γという。
エマグラム上でこの状態曲線が乾燥断熱線より立っていれば(すなわち傾斜が急)、その気塊は安定、逆に寝ていれば不安定という。
安定の場合はその気塊に上下の仮想的変移を与えてもはじめの状態に戻ろうとする。不安定な場合は始めの状態から離れようとして対流か起り、天気悪化のもとになる。安定の時は状態曲線は高さが増加するに従って温位θが増加していることになる。逆に不安定の時は高さとともに温位θが減少していることになる。この場合を超断熱といい、雪の原因となる。
聴講者 17名
(高橋恂)
山479(1985/5月号)