科学委員会
KAGAKU            

1988年
シンポジウム「危険な動物と安全登山」
1988年(昭和63) 4月16日(土)
山岳会ルーム
講師:浅沼 靖(国立科学博物館動物研究部)「ダニの話」
大田原美佐雄(千葉県衛生研究所所長)「ツツガムシの話」
影井 昇(国立予防衛生研究所)「寄生虫の話」
塩原幹治(元三井金属工業KK取締役)「昆虫とヒル」
近藤 了(元国立予防衛生研究所)「ヘビの話」
中村純二(東京大学名誉教授)「クマの話」
浜口欽一(国立佐倉病院)「マラリアについて」
参加者60名  報告:山516-1988/6(高橋 詢)  予稿集:24P  

シンポジウム

「危険な動物と 安全登山」

    科学研究委員会


   1988年4月16日(土) 13時半―17時
      日本山岳会ルームにて

 科学研究委員会主催、または共催のシンポジウムは年一回開く恒例になっていたが、1988年度は準備の都合上、本年4月に開かれた。

 今回は国内外の旅行、登山に際して遭遇する危険動物の生態、事故予防対策、救急処置などについて7人の講師の方からお話を伺うことができた。

ダニの話  国立科学博物館動物研究部  浅沼靖
ツツガムシの話 千葉県衛生研究所長 大田原美作雄
寄生虫の話−登山時に考慮しておくべき寄生虫疾患 国立予防衛生研究所 影井昇
昆虫とヒルー南方の四難敵と北方のもう一つ  元三井金属鉱業KK取締役 塩原幹治
ヘビの話  元国立予防衛生研究所 近藤了
クマの話 束京大学名誉教授 中村純二
マラリアについて 国立佐倉病院 浜口欣一


 まず多忙のなか時間を割いて、興味ある、有用なお話をして下さった講師の方々にお礼を申上げたい。
 以下要約を当目話された順序によらず、圧縮した形で記す。なお、当日使用された予稿集入手希望の方は本委員会宛詰代500円+郵送料170円計670円(切手も可)送って頂けばお送りします。

 浅沼靖氏と太田美作雄氏からはダニとツツガムシ(ダニの一種)のお話があった。 ダニ類は2万種もあるが、人間に害を及ぼすものは少数である。マダニ類は哺乳動物、鳥類に寄生しているものが人間につくが、マダニのもつ病原体から起る病気には野兎病、ライム病があり、後者は最近関東、中部地方に発生がみられる。

  ツツガムシは信濃川、阿賀野川、最上川、雄物川の特定河川敷で古くから発生が知られているが、これはアカツツガムシで、盛夏がふ化期で、アカツツガムシ媒介性恙虫病を起こすが、近年アジア各地、豪州に非アカツツガムシ媒介性恙虫病が広く見出され、日本でも河川に関係なく、各地で発病が報告されている。アカツツガムシのふ化期は盛夏なのに対して、フトゲツツガムシは4−9月と9−11月の2回、タテツツガムシは秋―冬である。林や草原にいるので、土や草の上に腰をおろさないこと、肌を露出させないことが予防対策であるといわれるが、事実上これは難しそう。咬まれて発熱、発疹かでたら医師にかかること。現在は早期に治療すれば怖しい病気ではない。

 影井昇氏は寄生虫について話された。海外遠征の登山の前後段階でかかる可能性のある寄生虫病は極めて多く、事前に通過地域の寄生虫病の流行状況を把握しておくことが望ましい。

主な寄生虫病としては、(a)節足動物媒介のものとして各種マラリア(後述)、フィラリア病、(b)貝類媒介、(c)土壌伝播、(d)食品媒介などのものがある。それぞれ徒渉や水あびを避ける、素足で歩かない。生水を飲んで、生食をしないなどの、予防の配慮が必要である。マラリアについては理事の浜口欣一氏から詳しいお話があり、最近非規則的に発熱する熱帯マラリアに海外で感染するものが増えていること。予防には蚊にさされないこと、発病したら速やかに医師にかかることが必要である。

 塩原幹治氏は長年にわたるフィリッピン、アラスカでの経験を話された。
マラリア、フィラリアは蚊にさされないよう蚊帳の使用、モスキトールペランの塗布をする。ジストマはカタツムリに寄生して水中に放出されるので、徒渉には長靴の使用が望ましい。蛭に対しては防虫ルペランとして、カッター(米国製)というクリーム状塗布剤が有効である。

 近藤了氏からはヘビの話を伺った。
地球上に現在棲息する2300種のうち毒蛇は約400種で、溝牙蛇科、鎖蛇科、蝮蛇科に分類される。神経毒、血液循環障害、出血、その他の酵素作用がある。咬まれた時は傷口の上部を余り強くなく縛ばり、毒液を口で吸いだす。小切開して洗浄するなどの応急処置をし、一刻も早く咬まれた毒蛇に対応した血清を注射する。治療血清は毒蛇の種類によって異なり、それぞれの国でしか製造していないので、あらかじめ連絡をとって血清を携行するのが望ましい。咬まれた毒蛇の種類を確認して医師に告げることが必要である。

 クマの話は委員の中村純二氏が話された。本州のニホンツキノワグマ、北海道のエゾヒグマのうち前者は減少傾向にある。エゾヒグマは生息数約2800頭と推定され針葉樹林帯に棲むが、夏は蚊や蛇をさけ山に登る。数キロメートル−数十キロメートルの厳重な縄ばりをもつ。雑食性であるが、一度味を覚えると同じものを好み、人食い熊は人間ばかりを狙う。視力は鈍いが、聴力、嗅覚は鋭い、熊対策としては熊
の生存圏に入ることはなるべく避ける。音を出して人間の存在を知らせる。食料、残飯などを絶対に残さないことなど。今後の対策としては学術調査、保護区を設定して、住みわけを行なうなどか考えられる。

 最後に若干の質疑応答のあと、松丸委員長の閉会の辞があり、6時近くに終了した。

参会者(順不同) 祖父川精治、滝沢ちよ子、高部正夫、岩井えみ子、斉藤桂、内藤勇、中谷充、坂倉登喜子、関本俊雄、横田春雄、橋本行雄、関清、大塚玲子、鳥居亮、高田知典、小川隆、林栄二、川俣俊一、南川金一、丸茂キクエ、里見清子、久保孝一郎、岸栄、山本一彦、柏原嘉子、穴田雪江、遠藤光男、渡辺富士子、沼倉寛二郎、二本久夫、北野忠彦、三尾竜臣、河合文恒、悳秀彦、藤谷和正、石井恵美子、岡野修、奥野玲子、南井英弘、奥野道冶、鈴木嶋夫、山田哲郎、赤松光、石田要久、石川弘、川合慶子、三栖寿生、小林岳彦、太田敬、板垣望、小松原一郎、広羽清、橋本雅子、入沢郁夫、H.Solomon、中村あや、新関紀和子、高橋詢、高遠宏、松丸秀夫

            (高橋 詢)

山516 (1988/6月号)


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