平成4年11月28日(土)10時から17時まで、青山学院大学会議室において、雪崩遭難防止のためのシンポジウムが聞かれた。参会者は96名、
冬山シーズンを前にして、若年層の聴衆も多く、盛会であった。徳久委員長の挨拶の後、午前中は中村、午後は大蔵の司会で進行した。
詳細については、科学研究委編集になる予稿集「雪崩シンポジウム・92年」(頒価500円)を参照していただきたいが、ここではその概要を報告する。
■登山者のための雪崩学
日本氷雪学会理事・雪崩分科会長 新田隆三
雪崩遭難をなくすには、まず気象や雪質、雪崩についての基礎知識が必要である。雪質の分類では、シモザラメ雪やコシモザラメ雪の説明がなされた。これらが積雲層内の弱層をしばしば形成する。雪崩の分類では、点発生、面発生、スラッシュの解説が行われ、梅里雪山雪崩の運動モデルの計算から、テントサイトや休憩地がどんな状況で雪崩に直撃されたかも示された。
強調点として、行動前の弱層テストの重要性となだれやすい地点では薄氷を踏む思いの慎重な前進と、間隔をあけての行動などがあげられた。
■雪崩事故の教訓から
日本勤労者山岳連盟(労山)遭難対策委員 中山建生
横尾尾根上部の1月の雪崩事故(死亡1、重傷7)や八ヶ岳中岳沢の3月の雪崩事故(死亡12)などの分析結果の報告であった。「せっかくここまできたのだから」「行けるところまで」などの心理に影響されることなく、弱層テストや風雪、積雪などの判断を冷静に行って、安全なスケジュールを採択すべきである。
これには雪崩の知識や冬山の経験も必要で、リーダーの責任は極めて重い。遭難体験者は、周囲への思惑もあろうが、将来の事故防止のため、ぜひ正確で客観的な報告を残してほしい。
毎年1月、労山では雪崩事故を防ぐための実地講習会を中央アルプスで実施している。数分以内に埋没者を堀り出す方法や、窒息より危険度の高い低体温症(32℃以下)者の救急法も体験できるので、できるだけ参加していただきたいということであった。
■雪崩現場での捜索
労山技術委員・雪崩講習会 主任講師 松葉桂二
雪崩が起こった場合の捜索救助法の第1点は、3種の神器ともいうべき、 ビーコン、シャベル、ゾンデ棒の携行である。ビーコンは今回我が国のワーム社がAB1500を開発した。1500時間作動し続け、2次雪崩対策用自動発信器を内蔵している点有効である。
会場ではこれによる発見テストが行われ、30秒程度でつきとめられた。
掘り出しについては、前記雪崩講習会における深さ2メートルの埋役者掘出し作業のスライドが紹介され、私どもに感動を与えた。
第2点は雪面に呼びかけたり、雪面に耳をつけて音を聞く、スカッファンドコール法や人工呼吸法の体得、あるいは事前の緊急通信網の設定などである。埋没者の発見に、訓練された雪崩犬が有効との実験結果も報告された。
■雪崩遭難をなくすために
日本山岳会・雪崩対策委員 松永敏郎
冬山へ入る人々の心構えから、遭難を起こした場合の家族や現地関係者に与える影響についての配慮まで、数々の問題点が指摘された。冬山については、たくさんの知識を得るとともに、積極的に経験を積んでいくなど、厳しい努力が必要であること、特に雪崩の危険の多い降雪中や風雪時には行動せず、ひたすら待つことの重要性などが強調された。
■パネルディスカッション
最後に4名の講師がパネリストとなり、数々の質問に応える時間が設けられた。
集中した質問は、弱層テストによる雪崩の危険性の判断法に関するものであった。弱層はシモザラメ雪層であることが多く、これはピッケルを刺しただけでは安心できない。このため実地でのテストの実施と、その日の雪崩状況の観測が必要であるが、同時に気象や地形との関連にも配慮して、経験を深めることが望ましい。ビーコンの取り扱いや掘り出し法についても練習は必要である。
一方日本の冬山と氷河地帯やヒマラヤの高所とでは、雪崩の様相が異なり、国内でも、低温時とミゾレなどが降る時節ではまったく異なる。
これらの問題に対応するためにも、このようなシンポジウムを続いて開いてほしいとの要望があった。
(中村純二)