昨年11月29日、明治大学駿河台校舎にて、4人の講師をお招きし気象に関するシンポジウムを開催した。
1、山の気象と天気図の見方(日本気象協会・奥山巌会員)
天気は上層の天気図が基本であり、これを推測、補うものとして地上天気図、気象衛星の雲画像などがある。
地上天気図においては、風の強さ、方向、気温の減率、大気の安定度などから雲の生成を推察する。雨や雪を生む悪天は、雲の付近に上昇気流があるか否かで決まる。
気圧配置は、低気圧中心から南西方向に寒冷前線、南東に温暖前線が生じ、前線面付近に積乱雲を生じるときは注意を要する。
悪天の前兆には前線の接近などが関係するが、最近は定性的なパターンが現れなくなった。一般に半日ぐらい前から巻雲−巻層雲上−高層雲−と変化して乱層雲となり雨が降り出すといわれているが、寒冷前線があると急に雲が現れ、積乱雲となって雨や雷雨をもたらす。風上(西)の方向の雲に注意することが必要。また朝、空気が澄んでいるときは雷に注意を要する。
[観天望気] 上層の雲が帯状になっている場合、翌日雨になる。自分のいる南側の山に笠雲がかかった場合も悪天の前兆。
2、気象衛星雲画像の見方と利用法 (日本気象協会・黒田雄紀氏)
ひまわりは二十年前から天気図とともにメディアに示されている。地上天気図ではわからない上層の天気、とくに積乱雲がわかる。積乱雲は危険な雲であり、悪天をもたらす。雲画像から積乱雲を見っけることと、日本海低気圧に注意することが重要なポイント。
ひまわりは地上2万5800キロメートルを1分間100回転している。赤外画像、可視画像、水蒸気画像の3種類あるが、一般に見られるのは赤外画像で、雲のような温度の低いところが白く、海は黒く見える。
低い雲は灰色になる。可視画像は地球を見たまま映し、雲の分布はわかるが高さはわからない。水蒸気画像は大気の流れを識別する。
積乱雲は段階状か扇状になるが、画像では白く見える。発達するとコンマのような形になるためコンマ形雲ともいう。雷、突風、竜巻を起こし低気圧の寒冷前線の近くにできやすい。西側のヘリ、しっぽ付近で雷、突風が起こる。南海上から入ってくる場合など、天気図に現れない積乱雲がしょっちゅうある。
3つの低気圧(日本海、南岸、二つ玉)のうち、嵐をもたらすのは日本海低気圧である。南からの湿った空気で風や雨をもたらす。関東平野は南や東からの湿った空気に弱いといえる。山に行くときは天気図と雲画像を見て雲の動きをつかんでおくことが必要。とくに日本海側、西側の白い雲(とくに積乱雲)に注意。
3、気象に起因する山岳の危険な現象(小岩清水会員)
雪崩は積雪期において避け得ない現象であるが、経験や知識によってある程度危険を回避している。雪があるなしに関わらず、遭遇する可能性があるのが雪代雪崩(スラッシュ)で、大変危険なものである。
[谷川岳の例] 雪のない時期に起きていた。凍結層が形成されなくても岩質が不透水層と同じ役割を果たしている。日本海に強烈な低気圧が入った場合、上に積もった雪が短時間の雨で湿潤化して液状(スノージャム〜シヤーペット状)となり、砂を巻き込みながら流れ下った。液状雪崩で雪がからみ、土砂が混じっている。
[富士山の例] 水を通さない層に雪が積もり、雨が降ると雪を解かしながら斜面を下る。日本海の低気圧など気象変化により起こりやすいといえる。幅3500メートルにおよぶ巨大な雪代が記録されており、登山の重要なルートにもいくつかの雪代雪崩が起きている。一般の観光道路付近でも雪代の記録があるので、いつも注意が必要。雪がないのに雪崩が起こることを認識する必要かある。
通常の雪崩に比して雪代は巨大なデブリでまず助かることはない。
谷川岳、富士山以外で、木曽駒、宝剣カール、岩木山、秋田駒、鳥海山、利尻山など火山砂礫、岩盤性の山の多くに起きている。
4、北アルプスの雪・近年の変動から(飯田肇会員)
1985年から96年にかけて冬期積雪量の観測を実施。地球温暖化による現象が北ア、立山周辺でも起きている。データから積雪の年々の変動が激しいことがわかる。とくに市内に比べると山岳地では必ずしも同じ傾向になっていない。
冬山で雨になることが多くなる傾向があり、冬型の気圧配置が長く続かず、低気圧がよく入ってくる。高い山では、低気圧で降る雪と冬型配置の降雪の合計になるが、比率が変わってきている。冬型と低気圧型での降水の違いがはっきり見られる。
とくに北アルプスでは冬でも低気圧がよく入ってくることが大きな原囚。低気圧型と冬型で雪の降る量が異なり、冬型の雪は高いところほど積雪が多い。低気圧型は低いところでも積雪が多い。
また雪の中身も変化している。最近の雪はザラメ層の多い低気圧型で、雨も混ざっている。温度も地面では零度近く、雪の温度が比較的高い。
したがって雪崩発生も多くなる。例えば。昨年、剣岳での大きな雪崩の原因はシモザラメ雪であった。雪の中に水の層があると温度勾配が生じ、シモザラメ層になりやすい。この状態で次の雪が積もると雪崩になりやすい。
霧も雪崩を起こしやすく、雪泥流(スラツシユ)が黒部渓谷などに多く発生している。いずれも雪の中の温度が高くなっていることによる。
参加者約80名。当日の予稿集があります。
(近藤善則)