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熊本日日新聞に下記の記事が掲載されました

体験的中高年登山塾

特徴や機能 正確に伝えて

 新しい素材を使った衣服などの登山用品には正直、目を見張る。各メーカーの研究開発競争の結果でもあるが、商品の宣伝には誇張もあるのではという声もある。
日大文理学部の講師で日本山岳会科学委員会のメンバー、工学博士の織方郁映さんは「うそではないが誇大宣伝ではないか。特徴や機能を正確に伝えていない」という。例えば、汗を吸って発熱するから温かいという繊維の宣伝があるが、織方博士は「外気か゛非常に乾燥しているいう特殊な条件下でわずかな発熱が観測されるが、雨や雪が降っていて湿度が高く寒い屋外では
@発熱を感じることは難しいでしょう。それに発熱の効果は一過性でしかない」とおっしゃる。

 そうした衣類を着て温かいというのは、むしろ繊維の構造による断熱性が高いためだ。
「断熱性が高いから温かいと説明すべきなのに、汗を吸って温かいと宣伝することで、特殊な機能の繊維というような印象を与え過大な期待を抱かせてしまう」と博士は手厳しい。

 「寒いときは吸湿・発熱、暑いときは放湿・冷却」とうたって A「着るエアコン」と宣伝したり
「寒いとき温かく、暑いとき涼しい温度調節素材」を強調する商品も、その効果は、一時的に過ぎないという。
 いずれも
B科学的根拠はゼロではない。しかし、衣服にそうした効果を出そうと思えば、すごく分厚くて重いものにしないと駄目とか、いろいろな条件が出てくるという。

 「科学者の立場から見ると、なぜこのような広告になるのか、理解に苦しみます。先進的な科学用語を織り込んだ難解な説明を読まされると、催眠術にかかったように信じてしまうのでしょうか」という指摘は、メーカーにも消費者にも向けられている。                                        (熊本日日新聞2004.1.20記事より)  

装備の機能と限界知って

 登山というのは、スポーツの中ではかなり特殊である。時して過酷な気象条件のもとで、激しい運動を強いられる。極寒で汗をかき、すぐに衣服を変えることもできない。それだけに装備の良しあしが命にかかわることもある。装備の機能と限界をよく知っていることも、大事である。

 ゴアテックスという世界的特許商品の防水・透湿機能にはすでに触れた。それでもやはり外気温や着ているものによってその効果は大きく違う。日本山岳会の科学委員、織方郁映工学博士はゴアテックスの湿気を外に出すスピードと発汗量との関係を試算してみた。その結果を紹介しよう。

 激しい登山をしているときに、人はどれくらいの汗をかくのだろうか。山本正嘉・国立鹿屋体育大学助教授の著書「登山の運動生理学百科」によると、体重60`の人の脱水速度は1時間あたり300cc そのうち呼吸で出す分が40%で、汗は1時間に180ccだ。これをもとにC計算してみると、肌着に直接ゴアテックスの雨具を着ると、発汗速度より透湿速度の方が速くて十分な乾燥状態に保たれる。

 しかし、肌着の上にシャツを着た場合には、雨具の内側にやや結露ができる。さらに防寒着の上に雨具となると、相当の結露が予想されるという結論だ。つまり防寒着プラス雨具で快適にいようとすれば、あまり動かない方がいい。行動時には、外気の状況も考えて雨具の内側に着るものを調節することが必要になる。雨は防げても汗でびっしょりでは困る。

 新素材もいいが、せっかくの機能をうまく活用できるかどうかは、使う人の判断次第ということをしっかり頭に入れておくのが大事だ。 

                                (熊本日日新聞2004.1.27記事より)  

織方氏注:
@発熱は絶対に起こらない。
A「電源が無くても使えるエアコン」と宣伝しているようなもの。
B特定の条件下で、限定された時間内だけ観測される現象。
Cゴアテックス膜の表裏の温度差から計算した水蒸気圧の差から蒸気の浸透速度が分かる。


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