科学委員会と自然保護委員会共催の本シンポジウムは環境庁、(社)日本山岳協会、 HAT−J、日本トイレ協会、山と溪谷、岳人の後援をいただいて、11月25日(土)
13時30分から17時30分まで、千代田区飯田橋・東京都高年齢者就業センター(シニアワーク東京)の講堂で行われた。心配された集員も、両委員会委員の努力で定席120名のところ138名の参加があり、補助席をつくる盛況だった。基調報告、基調講演とも各方面からの人材を得て、広く深い見識の意見発表となった。
定刻、総合司会小西奎二委員の挨拶で始まり、竹内哲夫副会長の開会の辞で幕をあげた。
基調報告は科学委員会担当の森武昭理事が、山のトイレを考える上での現状解析と問題提起・改善へ向けた動き・その中での登山者の役割を順序立てて明瞭に分析し、登山者の意識改革とマナー改善に掛かる合意形成が大切と分かりやすく発表(この発表の要旨は会報8月=663号巻頭記事参照)。
続いて緒方郁映科学委員が山のトイレ使用の判断の一助として、設備毎の概要と特徴を技術的に説明した。
基調講演では行政の立場から環境庁自然保護局の徳丸久衛氏が、現状改善の努力と登山者への要望としてスイス視察の体験より自己責任を問題提起。山小屋経営者の立場から燕山荘オーナーの赤沼健至氏と富士山のトイレ問題に取り組むエコ・トイレ勉強会会長宮崎善旦氏の両名が、現場からの声を発表。赤沼氏はし尿は毒物や廃棄物ではないという視点で、オーバーユースと騒がしいが、所によっては自然浄化能力が果たされている。適材適所な考えでよいとした。宮崎氏は富士山という特異な状況下での問題点と取り組み状況を説明した。
パネル討論会は筆者の司会で、基調講演者の他に、ツアー登山業の立場から斉藤友子氏、ジャーナリストでHAT−Jの北村節子氏、山小屋のトイレ問題のキャンペーンを張った信濃毎日新聞の斉藤隆氏の3名がパネリストとして加わり、意見発表。斉藤友子氏は環境配慮型のツアー(観光)登山を目指す客への指導啓蒙などについて、北村氏は自然保護団体HAT−J
の、トイレへの取り組みを実際の行動を例に、ペーパー分別の徹底およびトイレ問題を教育問題として捕らえるアイデアなどを説明した。斉藤隆氏はキャンペーンその後の感想として、山登りの営為は人の内面と深い繋がり(尊厳)がある。大量な排出行為は自然を侵すひとつの行為、傷つけられる側にあるのは山の尊厳。この二つの尊厳から排出者責任も考えようとした。
トイレ問題の危機感、有料化問題どんなマナーが必要かなど意見交換の後、会場からの発言について質疑討論を行った。その中で、山小屋や公共トイレの施設有りの事だけでなく、避難小屋や全くの自然の中での排泄問題も掘り下げて欲しい。過剰なインフラとの比較論、焼却や搬送に係わる新たな問題、山での排泄についてのマナーの徹底など、非常に有意義な意見が多数あった。
これらの意見を集約して司会役の筆者が、「ソフトを考える上にハードを学習し非常に役立った。しかし、人間に快適なトイレばかりを究めるのではなく、何のためのトイレ問題かを基底に進めないと道を誤る。環境に過度な負荷をかけない前提は絶対崩さないで、行政
(設備)、山小屋(維持管理)、登山者(維持費用とマナー)が三位一体となって合意形成のために分担努力をお願いしたい」と参加者個人個人の実行と周囲への啓発を訴えた。
最後に自然保護委員会担当の河西瑛一郎理事が閉会の言葉を述べ、定刻に終了した。
(自然保護委員会委員長・大蔵喜福)