●はじめに
このシンポジウムは、中央分水嶺踏査事業の一環として、科学委員会と中央分水嶺踏査委員会が主催、国土地理院の後援を受けた。当日は、一般の参加者のほか、実際に中央分水嶺を踏査する全国各支部の代表も含めて約2百人が参加した。
星埜由尚前国土地理院院長ら四人が中央分水嶺の意義や魅力などについて講演、その後のパネル討論でも活発な意見交換が行われ、総延長5千キロに及ぶ分水嶺の踏査達成へムードは盛り上がった。
シンポジウムは科学委員会の箕岡委員が総合司会を務め、中央分水嶺踏査委員長の石田要久理事が開会の挨拶をして始まった。
●基調講演
講演のトップバッターは今年1月に院長を退任したばかりの星埜氏。専門家の立場から、山岳会の宗谷岬から佐多岬までの分水嶺踏査計画を評価、中央分水嶺の定義に多くの議論があることを紹介した。
星埜氏は「水が別れるところを分水界、海をへだてるのが分水嶺とすると、北海道では知床半島を北端としてもいい。本州の中央分水嶺の始まりは津軽半島か下北半島か。これは陸奥湾が日本海か太平洋、どちらの海に付属していると見るかで決まる」と述べ、さらに瀬戸内海や薩摩半島錦江湾の例を挙げて、「中央分水嶺と簡単に言うが、面白い奥の深い議論が出来る」と、この機会に分水嶺論議を深めて欲しいと要望した。
また、星埜氏は、分水嶺は「人々の生活や文化にも大きな影響を及ぼしている」とその意味は単に地理的なものにとどまらないと指摘した。
次に、分水嶺研究にながく、百周年記念事業として中央分水嶺踏査を提唱した科学委員会の近藤善則委員が「分水嶺の魅力と踏査の意義」と題して登壇。
分水嶺の魅力について、地理、地学、河川、森林、文学、歴史、生活文化、交通などあらゆる分野と密接にかかわっており、登山の対象としても興味深いテーマがたくさんあると述べた。
近藤氏は、具体的なテーマを
@気候や風土の境界の役割を強く感じるところや、植生、動植物の観察などの自然系
A古道や峠の歴史上での役割、源流や三角点の観察などの人文系
B県や市町村の境界、鉄道、道路などの社会系ー
と三分類して「分水嶺とのかかわりなくして列島を論ずることは出来ない」と分水嶺への思いを語り、「分水嶺には登山道のないところもある。日本山岳会のパイオニア精神を活かせる唯一の国内登山、全支部の鋭意を持って臨む価値のある行事ではないだろうか」と結んだ。
北海道支部長の新妻徹氏は、実際に踏査をする立場からの苦労を語った。北海道支部の担当は、全体の2割にもあたる総延長1065キロ。各支部の中でもずばぬけて長い。しかも、途中は積雪期でないと歩けないような、難しいところも多く、踏査達成には強いリーダーシップと全支部員の努力が欠かせない。
新妻氏は、自らの北大山岳部時代からの登山経験などを披露しながら、分水嶺の調査山行を実施していることを説明。「中央分水嶺は、千歳空港のなかを走っている。これはどうしようかと悩んでいます」などとユーモアを交えながら、踏査をやり遂げるとの決意を表明してくれた。
最後に「日本の分水嶺」の著者、堀公俊さんが「中央分水嶺、ここが面白い!」と題して講演、「中央分水嶺は多彩な魅力を秘めている。分水嶺をはさんでしばしば植生、気候、風景、文化が大きく異なることがある。分水嶺を越えての人、物、情報の交流が日本の歴史を陰で支えてきたといってもいい。地理、地学的にユニークなポイントが多数ある。水源や観光資源として様々な形で私たちを潤している」と分水嶺研究の楽しさや意義を語った。
さらに堀氏は、「分水嶺ハンター」として自ら歩いたり調べたことを踏まえて、北海道、東北、関東中部、近畿、中国、九州の各地区に分けて、分水嶺をめぐる話題やトピックスを解説、「紹介できなかった興味深いポイントもたくさんあり、すべてを説明し尽くすことは困難。中央分水嶺の魅力の一端を感じてもらえれば本望です」と関西弁の楽しい話を締めくくった。
●パネルディスカッション
講演 |
1.地図と分水嶺 |
講師 前国土地理院長 星埜由尚氏 |
講演 |
2.分水嶺の魅力と踏査の意義 |
講師 科学委員会委員 近藤善則氏 |
講演 |
3.北海道主脈縦走と中央分水嶺踏査 |
講師 日本山岳会北海道 支部長 新妻 徹氏 |
講演 |
4.中央分水嶺、ここが面白い! |
講師 『日本分水嶺』の著者
堀 公俊氏 |
報告: 米倉 久邦(科学委員会委員)