紅葉という言葉を辞書で引きますと、樹木の葉が晩秋の寒冷に逢う頃、葉緑素が変質する結果、緑色を失って黄褐色となり、また花青素が紅変して紅色となること(広辞苑)とあります。紅葉(もみじ)はまた紅葉(こうよう)とも、黄葉とも表現されます。山の樹々の緑が秋を迎えて、赤や黄に美しく粧おうことを言っているのです。
私は南アルプスの植物を幾度か調査しておりますので、今回の話を南アルプスのもみじ観賞から始めさせて頂こうと思います。今年は台風もなく、また秋に入って冷たい日が続きましたので、南アルプスの紅葉は殊の外美しいようです。赤や橙色の葉はカエデ科の樹木に多く、文字通りの紅葉です。鮮やかな黄色はダンコウバイやカラマツなど、そしてクマの食糧として大切なドングリをつけるブナやミズナラは褐色のもみじです。中には葉の表面は赤いのに、裏面は緑色のままというマルバウッギのような変り者もあります。
南アルプスの紅葉を少し遠くから眺めますと、飯豊連峰など北国の山々と違って緑色をしたツガやウラジロモミなど常緑の針葉樹と紅葉した樹々がモザイクのように混り合った様子をしています。北国の全山紅葉の方が良いという人もいますが、緑ともみじが綿織りなす南アルプスこそ、という人もあります。
紅葉のメカニズムは、晩秋になって気温が低下すると、葉と枝の間の養分の通りが悪くなり、葉の緑色を作っていた葉緑素が分解されて、もとから葉には含まれていたけれども、葉緑素に被いかくされていた色素であるアントシアン(花青紫=赤色系)やキサントフィル(=黄色系)の色が現れることによるといわれます。
花青素は、光合成によって葉に貯えられた糖分を成分のひとつとして作られる色素です。数日の間穏やかな晴天か続いた後、急に冷え込んだ時、紅葉が一段と美しくなるのは、晴天時に葉に糖分が多く合成されたことが原因となっているのです。
紅葉という現象を葉が一時的に緑色でない別のものになるということで考えますと、冬のスギの葉の紅変や、春のカナメモチの紅変もそのひとつになります。冬に杉が紅葉することは案外気づかれていないかも知れません。
さて、紅葉の次には、落葉がやってきます。落葉は、葉柄の基部に秋になると。“離層”という特別な組織ができて、この離層の所で葉は枝から離れて落ちるのです。私は、シダ植物で落葉を調べたことがあります。シダでは、(1)離層は全くできずに葉が腐って落ちるもの、(2)春のうちに葉柄に離層かできて、ここから落葉するもの、(3)秋に離層ができて落葉するもの、と三つの型があります。ペッファーという人は、樹木の仲間も広く調べて12の型があると述べてます。要は“離層”のでき具合で、色々様々な落葉かあるようです。
緑の時を終え、紅の秋を飾ってハラハラと散りゆくカエデ類の葉もあります。枯葉が冬の寒風にカサコソと鳴りながらいつまでも枝に残っているコナラの葉もあります(この種では離層ができないのです)。また緑色のままで勝手気ままに落葉する不粋なヤマハンノキの葉もあります。葉だけでなく小枝も一緒に落してしまえというのは杉で、クスノキのあの大きな樹冠も小枝を落すことでバランスがとれているのです。
さて、最後に落葉の行方を考えてみたいと思い
山476-1985/2月号