昨年12月22日、麹町区民館で慶応大学の福井教授によるヒマラヤの氷河湖の調査活動に関する報告会が聞かれた。同教授によれば、地球温暖化の影響で氷河の融解が顕著で、現在ヒマラヤ周辺の氷河湖の数は9000、そのうち決壊の危険性があるものは200にのぼるという。福井教授は、その中でもっとも決壊の可能性が高いといわれている、エヴエレスト・ローツエ山麓にあるイムジャ湖をターゲットにモニターカメラを設置して、インターネットからでも湖水の状況を監視できる環境を作って帰国した。今後、流域住民に対する警報システムの設置や、決壊を未然に防ぐ対策の検討まで視野に入れている。
この報告会に同席した宮下会長と福井教授の間で、「JACとして何か手助けできることはないだろうか」という会話が交わされた。
これがきっかけで、自然保護委貝会と科学委員会が中心になり、同教授がイムジヤ湖を再訪する時期に合わせてJACとして環境調査隊を出そうという話が急速に進展した。早速、2月初旬にルームで企画された同教授の講演会に、会場にあふれる会員が集まったのも、募集した企画に定員をオーバーする参加者が集まり第二隊まで編成することになったのも、地球温暖化や山岳環境の問題に対する会員の関心の高さを示す証左であろう
十分な準備時間もないままあわただしく実施にこぎつけたこの計画であったが、予期した以上の成果を収めて帰国できたのはうれしい限りであった。以下に、簡単にわれわれの足跡を述べておこう。
第一隊(4月23日〜5月13日/17名)のテーマは、イムジヤ湖が決壊した場合の流域の影響度について、第二隊(4月25日〜5月15日/7名)のテーマは、エヴェレスト街道のゴミ問題について調べることであった。
第一隊は、ルクラを出発してイムジャ湖に至る道すがら、@集落の人口調査/8ヵ所、A環境の変化と住民の意識調査/インタビュー50名、B川筋周辺の住家やインフラ(橋、発電所)の測地調査/30件を実施した。現地語と日本語を解し現地事情に精通した4名のサーダーを隊に配し、ネパール語とネパールの国情に精通したツアーマネジャーに協力してもらったことが、この作業をスムーズに進展させる大きな力になった。
イムジャ湖自体の研究調査は福井教授以外にも事例があるが、流域の調査についてはほとんど事例がないと思われるので、福井教授に対しても有意なデータ提供ができそうである。住民のインタビューで印象に残ったのは、山の雪が昔と比べて大幅に減少し黒い岩の地肌がむき出しになっていること、住居地の降雪も大幅に減ったこと、森林が伐採によって消えていったことなどが異口同音に語られたことである。元をただせば、消費文明を謳歌しているわれわれ先進国が出すC02に起囚する温暖化現象や、先進国から押し寄せる登山隊やトレツ力ーの増加に対応してロッジが増え建材や薪の消費量が増えたことに原因があり、自分たちの責任を痛感した。
第二隊は、ゴミ問題について、ゴミ処理を中心に聞き取り調査を行なった。処理方法などについての本格調査の事例はあまり聞かないので、これも基重な情報になるだろう。
このような調査をしながら、モンスーン前のエヴェレスト街道を、道中刻々と表情を変えながら聳えるアマ・ダブラムの美しい姿を眺め、正面に壁のように立ちふさがるローツェやエヴェレストを遠望しながらトレッキングを続けた。 イムジヤ湖では、すでに現地入りしている福井チームのスタッフから通信基地の説明や氷河湖をせき止めているモレーンの物理探査の報告を聞いた。その後、福井教授ともお会いして、直接、今回の遠征の目的について話を伺った。
フィナーレはカラパタール(5590メートル)登頂。晴天のエヴェレストや名峰プモリを仰ぎ見て、一同感激に浸って帰路についた。
調査活動については、別途、報告会の開催と報告書の作成を予定している。
(山川陽一)