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1997年
その後の自然エネルギー利用発電       森武昭 会報「山」623(1997/4月号)

その後の自然エネルギー利用計画

森 武昭

 太陽光・風力・超ミニ水力などの自然エネルギーを利用した発電は、エネルギー源が枯渇することがない上に、自然環境との調和を図るという長所がある。この長所を生かして、商用電源の届かない山小屋などでこれを実用化していくことは、意義深いものがある。

 筆者らが、北アルプス穂高岳山荘で風力・太陽光発電の本格的な実用化研究を始めて以来、約15年になる。この間に、当会の年報「山岳」などに、そのつど成果を発表してきた。そして、平成7年3月にそれらの成果が認められて、鳥居亮会員を代表とするグループで第31回秩父宮記念学術賞を受賞するに至っている。

 本稿では、その後の自然エネルギー利用発電の状況について述べることにする。

普及状況と負荷のニーズ
 わが国の山小屋などでの普及状況は、表1、2のとおりである。北アルプスや八ヶ岳のように、登山者の多い地域で多く採用されていることが目につく。内訳としては、技術的に容易で、信頼性・保守性においてとくに優れている太陽光発電が圧倒的に多い。太陽光発電は、設備規模を、経済的負担などを考慮しつつ順次増設していくことが可能なことも、大きな長所となっている。例えば、穂高岳山荘では、平成7年に1280ワットから3440ワットヘ、丹沢尊仏山荘では平成6年に500ワットから。1000ワットヘ増設している。

 山小屋で使用する負荷としては、照明と通信手段の電源が大部分であるが、最近では環境破壊防止や清潔さを重視する観点から、し尿処理やトイレの換気扇などのニーズが高まっている。例えば、祖母山九合目小屋(太陽光4200ワット・風力700ワット)でのコンポスト方式トイレや、この夏に建て替える丹沢蛭ヶ岳山荘(3000ワットの計画)での換気扇などが予定されている。

太陽光発電のコストダウン
 太陽光発電の課題は、技術的にはほとんどクリアされており、残るはコストダウンである。このためには、一般家庭など平地での普及が不可欠である。平成6年度から、バッテリーを用いずに電力会社の配電線と連係することを条件に、国が費用の半額を補助するモニター制度が発足し、普及を促進している。現在最も代表的な設備規模は、3キロワットで4百50万円程度である。我が国全体での太陽電池の設備容量は、93年度で2万キロワットであるのを、2000年で40万キロワット、2010年で460万キロワットにすることを国の目標値としている。この数字をベースにすると、システム価格は、現在50万〜60万/キロワットのものが2000年には10万〜20万円/キロワットまでコストダウンできると予想されている。

 しかし、山小屋のような独立電源では、太陽電池そのものはコストダウンの恩恵を受けることができるが、バッテリーが必要な上に、荷揚げなど設備工事の条件が厳しい点(現在平地の倍近いコストとなっている)などを考慮すると、平地ほどに多くを期待することは困難である。とくに、バッテリーの小型・軽量化など蓄電技術の進歩が重要な課題となっている。

超ミニ水力発電の可能性
 ダム式のような大規模水力発電は環境問題が指摘されているが、超ミニ規模の水力発電は、沢の水をパイプで引き込んで使用後はそのまま元の川へ戻すだけなので、水質汚染の心配もないし自然環境に優しい発電方式ということができる。したがって水量と落差が確保できるところでは、超ミニ規模の水力発電が有効である。

 水力発電の最大のメリットは、太陽光・風力のように気象条件に左右されることなく、常時発電できることである。例えば、同じ容量の設備でみると、水力は太陽光の6〜8倍の威力を発揮する。それ故、数百ワット規模の水力発電でも中規模の山小屋の電力をほとんどまかなうことができる。

 筆者らは、奥秩父雲取山の中腹にある三条の湯で実用化試験を行ってきている。ここでは、落差が約24メートルで3インチパイプで発電機に送水している。数年前、カナダ製の発電機を購入して最大350ワットを得た。しかし、この発電機は、ノズルが一個のためタービンヘ加わる力が不均一になるという難点があり、最大出力での長時間運転には問題があった。そこで、昨年、ノズルが4個あるアメリカ製の新しい発電機を購入して試験したところ、最大460ワットの出力を得た。この発電機は、4個のノズルの径を調整して、タービンに加わる力をなるべく均一化することができるのが特徴となっている。現在も、現地で連続運転中である。 ところで、このような超ミニ規模の水力発電は、自然の豊かな山岳地域と商用配電線が屈いている一般施設の接点となる地域で適地が多いものと思われる。日本山岳会でも、山岳研究所運営委員会と科学委員会が中心となって、上高地の山岳研究所に1500ワットの小型水力発電装置を設置して、各種の研究実験を行つていくことを計画しており、現在関係機関と折衝中である。

 設置にあたっては、上高地の自然とマッチングするように留意し、山小屋などでの普及を促進するためのモデルケースにしたいと考えている。
なお、設備は公開とし、発電した電力は、地下の資料室の空調設備(古重な資料を湿気から守る)や照明に使用する予定である。

 超ミニ水力発電の普及は、太陽光発電の実用化で注目されるようになった分散型電源の一つとして、今後のわが国のエネルギー政策にも一石を投ずる可能性を含んでいる。

 自然エネルギー利用発電は、平地でも重要な役割を担っていくものと思われるが、山岳地域においては、その性格からして今後もいろいろなニーズが生じるであろう。

山623(1997/4月号)


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