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 マッキンリー

マッキンリーの烈風

科学研究委員会 大蔵喜福

 極北のマッキンリー(6194メートル)は世界の高峰のなかでとびぬけて低温と強風にみまわれる山である。そして数多くの登山家の命を奪った山でもある。1832年より90年までに7049名の登頂皆があるが、遭難死亡の数も64名を数える。冬期の登頂に限ると極めて少なく、登頂後生還した者となると11名のみである。

 酷烈なこの山の風を探りたいと考え山頂付近5710メートル地点に気象観測機器を設置したのが昨年の6月17日であった。一年間の風速、風向、気温などの自動観測が可能なのか一抹の不安は残ったが、第一歩を踏み出せた喜びは大きかった。本年6月26日、データ回収のため設置点に再び到達したが、センサーは倒壊していた。国立公圏の要望とはいえ固定方法が甘く、惨たんたる姿をさらしていたのだった。
失意の中を記録装置を回収。 登山活動を終了し、来年再々度の設置認可を国立公園局に申請し設置方法もより強固にすることで内々の承諾を得てきた。

 帰国後、記録装置が無事働いてくれたことがわかり望外の喜びとななったが、肝心の冬期の風をとらえることはできなかった。倒壊は昨年11月22日、それまでの最大風速は約70メートル/秒。雪の付着、結氷そのほか劣悪な気象環境下における風圧がワイヤーを切り、支柱を倒壊させたと想像できた。
その風は平地換算すると約52メートル/秒、そのパワーは超大型台風並である。切れた2本のワイヤーも回収した。帰国後の調では突風によるあらゆる方向からの衝撃加重の繰り返しと、さらに拾う破壊などの要因が重なり破断に至ったと結論づけられた。
要は設置法を改善することで解決するということである。来年の設置には4本足の支柱土台を岩盤に直接ボルトで止める方法を用いるつもりである。

 冬のマッキンリーの風は直接現地での観測は全くない。ゾンデ等の高層気象データ、西方マグラスと東方アンカレッジ気象台でのをものを調べると頂上付近500ミリバール自由気流では、約80メートル/秒ほどの風が最大である。冬になる前に70メートル近い風があったことは実に驚きで真冬の酷烈な風と寒気は想像を絶し、計り知れないものと思われる。

 なお幸いなことに年間計測できた気温は、2月3日午前7時にマイナス72度Cが記録され、11月より2月中旬までに60度C以下の日が数十日あったのに注目したい。

 しかし、生データのままでは正確さに欠け、補正分析が必要なため、解析に時間がかかりまだ正確な記録として発表できないが、いずれその機会がくると思う。

 一応第一のステップが成功とはいえ、来年度からの展開については、今回の失敗を糧として設置方法の改良、さらにトランスポータ方式で100キロ離れたタルキートナより指令でデ−タを直送する方式を加え、リアルタイムでのデータを入手するシステムを確立したいと考えている。さらに観測機器に必要なエネルギー供給の研究も進めているところだ。

 現在、科学研究委員会をはじめ、多くの協力者を得てプロジェクトチームを組み、鋭意進行中であるが、今後は多額の費用捻出と共に、いずれヒマラヤ地域への展開も見据えて、東海支部グループとの協力など大仕事となりそうである。山岳会各位のご協力を切にお願い申し上げたい。

山558(1991/11月号)


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