大無間山は南アルプスの最南端、光岳のさらに南東に位置する。三百名山だということだが、コースが長いにもかかわらず水場がほとんどなく、足の便もいまひとつ、さらに加えて展望がきかないことが大いに人を遠ざけているようだ。天候やコンデションなどがうまく整わないと、なかなか登れない山である。そして植木さんにとっては3回目のチャレンジになる。
新幹線には柴山さんとわたし。植木さんが8時に静岡駅に車で迎えにきてくれていた。つまり今回は3人だけの山行だ。春の分水嶺踏査と同じメンバーとなった。
当初はバス利用を予定していたが、最終が出る15時までには下山できない可能性が高いので植木さんが車を出してくれた。 登山口がある井川上流の田代までは遠い。バスは通るらしいのだが、対向車がくるとバックを強いられるような細い山道を越えて向かう。昨夜眠っていないので、運転中ウトウトしている。結局田代まで2時間かかる。 田代の駐車場にある無人売店で100円のトマトと梅干しを購入。近所の人に諏訪神社の上まで車で行けるコースを教えてもらう。上に水場がないので、駐車場で水を入れる。わたしは3リットルだったが、植木さんは5リットルをザックに背負う。
1日目は無人小屋に泊まり、2日目に大無間山に行って、その足で田代まで下りてくるという強行コースだ。2日目の行動予定時間は9時間。
天気予報はあまりかんばしくない。きょうから明日にかけて少し下り気味らしい。
教わったとおり、車を神社の入り口(750メートル)につけ、あまり手入れが行き届いていない杉林を登りはじめる。ザックは久しぶりに重い。すぐに汗が吹き出してきた。荷が重い上に蒸し暑いのだ。風もまったくない。30分ごとに休憩しながら行くが、ペースが落ちる。3人とも汗だくである。
必死の思いで、ようやく小無間小屋に着く(1796メートル)。泳いできたかのように汗でぐしょぐしょになり、シャツを脱いで絞る。小屋にはロープが渡してあり、みなそれに服をかけた。小屋は5〜6坪の小さな無人小屋だが、最近手入れをしたらしく、床などに真新しいベニア板が張ってあった。囲炉裏も切ってある。利用客というか、登山する人間はわれわれだけで、快適な一夜が期待できた。しかし期待も何も、眠っていなかったことに加え、非常に疲れていたので食べているうちに眠ってしまった。
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小無間小屋
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西方面
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4時半に起床。柴山さんはホタテ入りの雑煮を作る。5時10分に懐電を点けて出発。余分な荷物はデポしておく。
小屋からは一旦下り、再び登りになる。小無間(2149.6メートル)までは3つのピークを越えていかねばならない。地図には鋸葉とあり、結構な高低差がある。
しばらく行くと右手後方が明るくなってきた。朝日。しかし林の向こうだ。ときおり木々の隙間から雲海が見え、連なる山々が見える。晴れそうだ。わずかな隙間から富士山が見えた。よく寝たつもりだったが、体が重い。
小無間の頂上はなだらかなところだった。7時26分。もちろん展望は相変わらず良くない。
小無間から大無間までは比較的なだらかな尾根道だったが、倒木が多く歩きづらかった。シラビソの林がずっと続いていて、ときおり西に山が連なっていたのが見えたが、よくわからなかった。中無間らしきところをすぎると、一部だけ南アルプスが見えるところがあって、聖岳や光岳らしき山容がみえた。
9時30分、大無間到着。展望はなかったが、30分以上休む。これまで誰にも会わないと思っていたら、ひとりの若者が登ってきた。小さなザックを背負い、今朝5時に田代から上がってきたという。日帰りだそうだ。いつも日帰りで槍ヶ岳も日帰りしたという。 帰り道は少しわかりづらかった。尾根が分かれ、人があまり入っていないためだ。
小無間を少しくだったところで5人にグループにあった。静岡のグループだというが、ここは初めてで、日帰りで小無間までを往復するという。さらに行くとそのグループのかたわれがいて、われわれが神社のところに車をおいていたのをみて、よく知っていると感心していた。
それにしても往復の鋸越えはつらく、天気はもったが暑かった。ふらふらしながら小無間小屋に着いた。
小屋に置いていたシュラフなどを詰め、あとは下るのみ。しかし体が熱く冷めない。疲れていたが大丈夫だろうと思い出発したがだめだった。少し下ったところで心臓がバクバクし、目の前が真っ黄色になって動けなくなってしまった。しばらく休み、持っていたポカリスエットの粉を溶かして飲んだ。植木さんが心配して戻ってきてくれた。はじめての経験だった。たぶん熱中症だったのだろう。途中で2度ほど休み、トップに立たせてもらった。走って下りていると空冷で動けるのだが、足を止めると暑さがぶり返しつらくなった。2時間。フラフラになって神社に到着した。
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大無間山山頂
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北方面
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田代温泉は開いていなかったので、近くの民宿「ふるさと」で湯に入れてもらった(500円)。ぬるぬるとしたいい温泉だった。もちろんわれわれ3人だけだった。
風呂からでて自動販売機で冷たいジュースを1リットルほど飲むとようやく体が落ち着いた。
それから植木さんの運転で静岡駅まで送ってもらう。
いつもだったら飲んだくれて新幹線なのだが、柴山さんが飲まないので、ラーメンを食べ、コーヒーを飲んで新幹線に乗る。それもまたよし。いい山旅だった。
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