6月19日、ルームにて森武昭常任評議員を講師に「自然エネルギー発電の現状と課題−山岳地域を中心として」について講演をしていただいた。参加者は32名であった。実体験を通した具体的な課題の提起など、映像を駆使したわかりやすい説明であった。
まず講師より「地球温暖化対策の大きな柱の一つに自然エネルギーの実用化促進が挙げられている。
しかし、この普及に向けては技術面だけでなく多くの問題点を含んでいる。本講演ではこの点を解説し、エネルギー問題を参加者と共に考えてみたい」とのコメントがあり、講演が始まった。
森氏は四半世紀前から、山岳環境保全の重要性を認識し、山小屋での自然エネルギーの実用化に取り組んできた。それは地球温暖化防止への取り組みの先駈けとなった。
我が国の自然エネルギーとして、太陽光発電、小型風力発電、小規模水力発電をあげ、それぞれの特徴、長所と短所、実施の状況などについて詳細に説明した。
太陽光発電は25年前、最初に穂高岳山荘で取り組み、その後、蝶ヶ岳・笠ヶ岳・双六小屋・丹沢の塔ノ岳で実施。平成に入りコマーシャルペース化が進み多くの山小屋で導入された。保守が不要で取り扱いが容易な半面、発電量が天気任せで、最大出力の10パーセントほどで設備利用率が低いのが短所。独立型で使用する場合、バッテリー容量を決める考え方が設計のキーポイントになる。
10年前、上高地にある山研の一角に出力1キロワットの水力発電設備が設置された。これは20年前、老朽化した建物の建て替えに当たり、研究所の名に相応しい事業として自然エネルギー利用の研究が提案され、約10年間の歳月を費やして完成したものだ。
その水力発電設備から得られた多くの分析データは、現在、山岳地での小規模水力発電の実用化に貢献している。氏はこの実用化研究の中心で実行推進役であった (『山岳』第97、巻末参照)。
次に、我が国の自然エネルギーの実情については、全使用エネルギーの4割強が電力であると説明し、二酸化炭素削減のためには自然エネルギーを推進する事が必要不可欠であると述べた。 自然エネルギーの今後の動向として、風力発電、小水力発電、太陽光発電のそれぞれの特徴について解説した。
特に太陽光発電は、自然エネルギーのなかで最も普及が期待されるという、また、国の補助金は復活したが、休耕地・道路のり面・公共施設の屋上などで設置するためには法の整備が必要だという。
最後に、「我が国は地球温暖化防止のための排出ガス(二酸化炭素)を2012年までに1990年実績の6パーセント減を国際公約している。しかし実績では、逆に10パーセントほど増えている。今後、対策として、自然エネルギーの普及、省エネルギー、節電、緑化、非ガソリン化があげられる。山小屋や山岳関係では以前から環境保全を意識して、実用化レベルでいろいろな行動を実践してきた。これからは同じ取り組みを平地の一般家庭でも行なっていくことが強く望まれる」と結んだ。
(野崎和彦)
山783 (2010/8月号)