火山ガスの危険を学ぶための現地は、あの安達太良山・沼ノ平である。一昨年9月の4人の遭難はまだ記憶
に新しいところだ。
6月12日、参加者39名を乗せたバスは、まず浄土平へ向かった。
磐梯・吾妻スカイラインの名にふさわしい景観を楽しみ、ブナの原生林の緑に目を洗われて到着した時、迎えてくださったのが、地元支部の3名。終始、案内に説明にとお世話になった。
午後は目の前に見える一切経山へ登った。頂上では、足下の五色沼が静かにコバルトブルーの水を湛えて目を吸い寄せる。緩やかな起伏で西に延びる吾妻連峰を見やりながら「あのあたりが大分水界」と指差す会員もいる。下る道々、吾妻小富士のお鉢の全容が見事に眺められた。
磐梯沼尻高原ロッジに落ち着く。夕刻から千葉茂樹講師(福島南高校教諭)の講演。三年来、沼ノ平の危険を伴う観測を続けており、噴出ガスの主成分は硫化水素であるという。
今年五月、火口原で行われた観測や録画から、事故現場である南斜面で火山ガスが出て流れている様子や、地温が高いためアイゼンをはいて歩いた一帯の強烈な臭気、泥をまじえて吹き上げる噴気口群、沸き立つ蒸気、硫黄の沈殿物を流す黄色い熱水の川など、近寄り難い恐ろしさを伝えてくれた。驚いたのはただ独りで灰白色の火口原に防毒マスクもつけずにうろうろしている一般登山者の映像だった。講師は「無知ほど恐ろしいものはない」と強く警告。
噴出しが見えるのは蒸気を伴っているからで、湯気がなくガスだけ音もなく出ているところもある。火山ガスは空気より重く、低いほうへ流れ、気象条件によっては留まりやすい地形もある。ガスの臭いに嗅覚は慣れてきかなくなる。ガスの通り道は予見し難く、突発することもあるという。
前日これだけ叩き込まれてからの実地勉強は、登山口に建つ鎮魂碑の前で、決して遭難してはならないという自覚に始まった。注意すべき山肌の変色について説明を受けたあと、硫黄採取鉱山跡から南側の尾根に取りつき、沼ノ平を俯瞰できる稜線に出た。眼下に広がる荒涼とした風景。
じっと目を凝らせば100メートル余の高度差がある白泥のたまりから間歇的に茶色い泥が噴き上がるのが見える。
船明神山、安達太良の山頂で眺望を楽しみ、くろがね小屋へ下った。
活火山の七割で火山ガスが噴き出しているという日本。どこでも相当の注意が必要である。結局は登山者自身が火山ガスの危険性をよく認知し、噴気地帯の場所、ガスの組成などの情報をつかんで適切に判断しなくてはならないのだ。
火山ガスに対する基本的な認識や、事故の実情、身を守る対処法については「山」642号所載の森武昭理事による詳説をぜひ再読していただきたいと思う。
(福山美知子)
山651-1999/8月号