2004年9月、自然保護委員会発足40周年を期して上高地で開催された全国集会において、「日本山岳会自然保護活動のこれから」が真剣に論じられ、さらに集会に参加できなかった支部を含め全国各支部から多くの意見が寄せられました。自然保護委員会はこれらの意見を基に議論を重ね、それを「指針(案)」としてまとめ本年4月9日東京・高尾で開催された自然保護全国集会に提案しました。
集会では自然保護活動の在り方について熱心な討議が行われ、その結果が新たな活動指針として参加者の合意を得、そのうえで4月理事会にて承認されました。自然保護委員会、全国各支部の自然保護委員そしてすべての山岳会会員が力を合わせ山の自然を護るための活動指針としてここにお示しします。(2005年5月31日 自然保護委員会)
日本山岳会自然保護活動指針
二十一世紀を迎え、地球環境問題は人類最大の課題として認識されるようになった。 自然保護も地球温暖化防止、生物多様性の保全を意識して活動することが要求されている。かかる時代背景のもと、山地や森林が国土の70%を占めるわが国において、そこを活動のフィールドとする日本山岳会にとっては、山岳地域の自然保護は最重要課題のひとつである。
地球サミットと時を同じくして1992年に発表された「日本山岳会自然保護委員会の行動指針」は、先達の優れた先見性のゆえに今日なお陳腐化することなく正鵠を射ている。
百周年記念のこの年、この方針を自然保護委員会の行動レベルからさらに一段進めて日本山岳会が山の自然環境保全に積極的に取り組むためのアクティブな指針として、ここに「日本山岳会自然保護活動指針」を会員全員に対して呼びかけるものである。
理念
- 1.地球環境を現在以上に悪化させてはならない。われわれは健全な生態系の維持や復元に積極的に貢献するよう努力する。
- 2.わが国の山々は、世界的に見ても多様な自然環境を含む貴重な存在である。これを破壊から守って永く後世に伝える事は、現在のわれわれ山岳人の責務である。
- 3.登山行為には時に自然破壊や干渉を伴う恐れがあることを認識し、行動にあたってはその最小化を常に心掛ける。
- 4.山岳地帯およびそれにかかわる自然の乱開発を監視し、過剰な利便性の追及や経済優先政策によってわが国の山々が荒廃するのを防ぐため、積極的に行動する。
- 5.海外登山に際しては自然環境の保全を基本的な条件とし、その国の文化を尊重し、また、人々の生活を乱さないように特に配慮する。
活動の指針
1.主たる活動分野 |
指針 |
範例 |
- (1)乱開発・自然破壊等社会的問題に対する抑止力としての活動
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- ・支部のアンテナ機能の発揮、本部委員会との緊密な連携により問題が顕在化しない段階で対策を講じる
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- ・上高地西穂ロープウエー画(1963)
- ・南アルプススーパー林道開発問題(1982)
- ・長野五輪スキーコース岩菅山開発計画(1990)
- ・鳥海山南麓スキー場開発計画(1997)
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- ・日本山岳会会員は、全員が基本マナーを守り自然保護の見識を持ち範を示す。
- ・オ−バーユースによる環境破壊は対症的対策と併せて、一極集中を避ける根本対策が重要
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- ・ゴミとトイレ:『山のトイレマナーノート』の作成
- ・登山道の荒廃
- ・高山植物の踏み荒らし:早池峰インターハイ問題(1999)入山規制
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- ・自ら自然保護の主体者となって汗を流して行なう実践的活動
- ・活動の活性化発展のために、JAC会員のみならず広く一般賛同者を包含した活動とする
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- ・森林ボランティア活動
- 白神山地ブナ林再生事業
- 高尾の森づくり活動
- 猿投の森づくり活動
- ・大山山頂の植生復元
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- ・日本山岳会会員、一般登山者、青少年など対象別の活動を行う(印刷物の作成。
シンポジウム、勉強会、自然観察会の開催)
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- ・機関紙「木の目草の芽」の発行
- ・会報「山」の活用
- ・山のフィールドマナーノート、山のトイレマナーノートの発行
- ・上高地インタープリター活動(山の自然学研究会)
- ・公開シンポの開催 高山植物盗掘防止(1998)
- ・ホームページの活用
- ・フォーラムインの活動
- ・子どもキャンプ
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2.活動をより活性化させるために
- 1.自然保護委員(本部、支部)は上記各活動分野にわたって、「行動する委員」としての活動、そしてそのための良識、行動力が期待される。
- 2.各支部は、自然保護委員の選定にとどまらず、可能な限り支部自然保護委員会を構成して活動することが望ましい。各支部は支部独自の自然保護活動が尊重されるが、自然保護委員会(本部)とのコミュニケーションを密にし、必要に応じ連携プレーによって活動の効果を高める。
- 3.内外の利害関係者が存在する場合でも、それによって行動が制約されることの無いよう最大限の努力を払う。
- 4.活動を効果的に推進するため、必要に応じ他の団体との共同歩調も考慮する。
特定専門分野について継続的な活動が必要な場合は、委員会の組織を越えて広くJAC会員及び会員外の賛同者や専門分野の知識経験保有者を募ることも考える。
シンクタンク機能の検討も進める。重要なことは、結果として日本山岳会トータルとしての自然保護活動の輪が広がることである。